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東京競売ウォッチ

2017年4月25日

第366回 王子神谷の鉄骨3階建て

 借地権付建物については不確実な要因、特に地主の名義変更に関するコストなどのため、財務省が地主である場合などを除けば、入札本数は通常伸びない。しかし、先の3月9日開札では24本もの入札があった借地権付建物があったのには驚かされた。

 その物件は東京メトロ南北線「王子神谷」駅徒歩約8分に立地する。土地は幅員約12mの公道に面する約11.4坪で、建物は鉄骨造3階建の店舗・居宅で、延べ床面積は約30坪ある。前回の本欄で個人投資家が特殊物件には再販業者より思い切った入札価格を設定できる例を挙げたが、この競落もその例の一つである。

 借地権付建物ではあるが、立地や接道条件が優れ、賃貸にしても月額20万円程度は収受できそうである。従って、売却基準価額600万円で取得したとすると、地代(月額1万1400円強)を考えても年利回りは30%超となる。大量入札も頷けるが、一方ではこの物件は弱点も抱えている。その一つは建物の物理的状況である。現状の床べ面積は容積率オーバーであり、同規模の建物は再築不可である。そして、建物の一部(ベランダ)が隣地に越境もしている。さらに借地契約の期間が更新により10年間(期限は平成35年11月)になっていることである。この借地は土地賃貸の開始時期から考えて、旧借地法適用である。従って鉄骨造のこの建物は30年間の更新期間でなければならない。それにもかかわらず、10年間となっているので、この点も資産価値の面からハンデを負っている。

 こういう条件でありながら競落価格は売却基準価額の約2.6倍の1560万円弱であった。キャッシュリッチの個人ならではの競落価格であると言えるであろう。

 ちなみに次順位の入札者も個人であった。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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