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東京競売ウォッチ

2023年08月29日

第663回 23年上半期の競売市場

 昨年2022年通年での東京地裁本庁の競売対象物件数(開札前取下等は除く)696件で、それは1昨年2021年より5%強少なかった。一方今年2023年上期の対象物件は257件で、これは昨年22年上期と比して30%近く減少しており、このまま推移すると今年通期では500件を下回る可能性がある。もしそうであるとすれば、競売対象物件数は昨年比で30%近い大幅減少になり、少なくとも過去30年で最低の件数になる。これは政府のコロナ禍対策で企業の倒産を抑制したことが大きく影響しているだろう。加えて近時東京の不動産価格がマンションを筆頭に上昇していて不良債権が生まれにくいこともありそうだ。

 一方で本年上期の競落水準であるが、まずは競落1物件あたりの入札本数は平均11.85本で昨年平均13.1本を1.25本下回った。そして売却基準価額に対する競落価格の上乗せ率についても今年上期、全種別物件平均は59.81%で昨年平均の87.01%を27.2ポイント下回った。これらのデータから競落競争は今年に入りやや緩和したと言える。

 また今年上半期に新たに競売に付された、つまり差押えの件数を見ると480件であった。これは昨年上半期の532件に比して52件、率にして9.7%強の下落である。差押え件数(配当要求終期の公告数)は約半年先の競売入札対象物件数の先行指標である。従ってこの下落状況を見ても先に述べたように今年の競売物件数は500件未満になる可能性が高いだろう。

 さて今後注視したいのは今後の差押え件数である。コロナ禍対策で行われた無利子・無担保のゼロゼロ融資の返済が開始され、不良債権が増加するという予測もある。ただ先月7月は67件と依然低い水準であったので、その影響が出るとしても秋以降になりそうだ。いずれにしろ来年年初にかけて引き続き競売対象物件数は少ない状況が続くだろう。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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