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東京競売ウォッチ

2023年04月04日

第644回 明渡可能都心物件が高上乗せ落札

 先日全国地価公示価格が発表された。それによれば大都市商業地を中心に価格上昇が2年連続であったとのことである。その中でも東京都心の土地は値上がりが顕著であり、都心再開発は活発化している。

 ところで再開発でその進行に障害になるのが、占有関係である。特に店舗については多額の明渡費用がかさみ、また移転までの時間も相当要する。ただ競売での処分であると、対象物件への抵当権設定後に賃貸が開始されたものは、その賃借権を買受人に対抗できず明渡を円滑に行える利点がある。

 3月14日開札ではJR中央線「飯田橋」駅徒歩6分の商業地32坪強とその上に建つ店舗・共同住宅が対象になった。この建物は築56年が経過する古ビルであり、積算価値はほとんど無く、評価書でも300万円強と小さな金額である。ただこのビルには現状3店舗が営業していて、月額19~24万円にて賃貸中である。もしこの物件が任意売却となれば、立退料はは少なくとも6000万円程度は掛かるだろう。

 しかし、これら3店舗は全て抵当権設定後の占有開始であり、買受人に占有を対抗できない。残る権利は買受人の代金納付後6か月の占有だけであり(明渡猶予)立退料は買受人に請求できない。そんなことで売却基準価額9440万円に対し入札は29本集まり、最高価21400万円弱と売却基準価額の3倍近い水準で落札されていった。

 任意売却では明渡交渉で立退料の金額は去ることながら、その立退き時期についても調整が難航したであろう。競売は再開発を促進させると言える。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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