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東京競売ウォッチ

2009年12月7日

第20回 短期賃借権制度廃止による難題

 平成15年の民法の改正で短期賃借権制度がなくなった。平成16年4月1日に改正法が施行された後は、これまで短期賃借権者として扱われるような立場の賃借権者は占有権原が買受人の代金納付によってなくなってしまう(ただし、明渡しには6カ月の猶予が与えられる)。

 そして、買受人が賃借権を承継しないので、賃借人が前所有者に預託した敷金や保証金について、その返還義務を買受人は負わないことになる。

 これについて、アパート、マンションなど住宅では敷金が賃料月額の2~3カ月分であることが常であり、大きな問題に必ずしもならないが、店舗や事務所などは多額の敷金・保証金の場合があり、問題が生ずることが多い。

 11月27日開札でJR総武線「亀戸」駅徒歩2分に立地する店舗が開札対象になった。土地が約22坪、建物は築8年の鉄骨造3階建てで、延床面積約50坪あり、1棟丸ごと飲食店舗として賃貸されている。この賃借人の月額賃料は50万円であり、預け入れ保証金はその1年分の600万円となっている。

 この賃借人の賃借権は買受人に対抗できず、納めてあった保証金の返還を買受人に求めることができない。

 こういった場合、買受人が賃借人に対し、明渡しを求める場合と、そのまま新たに賃貸借契約を結ぶ場合があるが、いずれの場合でも交渉が難しいことが予想される。

 本物件は売却基準価額4,061万円のところ入札18本が入り、6,565万円で落札された。買受人の買受後の対処に興味が持たれる。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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