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東京競売ウォッチ

2016年4月26日

第320回 八丁堀の築51年、14階建てビル

 競売の入札価格は期間入札であるため、競争相手の入札価格は推量するしかない。どうしても落札したい場合は、売却基準価額に思い切って大きな上乗せを施さねばならない。

 3月10日開札では、東京メトロ日比谷線「八丁堀」駅徒歩約3分に立地するビルが最大級の上乗せ率で競落されていった。その物件は土地が南東で幅員18m、北西側で幅員6m、南西側で幅員4mの3方で接道する約221坪である。建物は築51年を経過する鉄骨鉄筋コンクリート造、地下2階付地上14階建ての延床面積約2,270坪である。現状、大半の部分が賃貸中の現役ビルである。このままリーシングを継続すれば年収で2億円以上は確保できるだろう。

 そんなビルであるが、売却基準価額は6億8,554万円であった。これに対し入札は23本入り、最高価40億100万円にて落札されていった。

 ちなみに、この物件の土地の路線価は1坪約406万円で、建物の固定資産税評価額はおそらく1億円程度だと思われる。したがって、この物件の相続税評価額は約10億円である。競落価格は、売却基準価額の約5.8倍で、相続税評価額に対し約4倍で競落されたことになる。

 さて、競落者は、本物件は建て直して収益性をより高くする意図もあるように思うが、その点では競売での落札は都合が良い。

 というのも、このビルのテナントの賃借権は、一部を除きすべて競落者に対抗できない。買受人が代金を納付した時から6カ月間だけ明渡猶予あるのみである。そして、それ以外の一部テナントもいわゆる旧法短期賃借権であり、今年中には期限を迎え、買受人は明渡を請求できる(敷金等の返却は必要であるが)。

 もしこれが一般の売買取引であれば、テナントに対し、明渡補償を呈示し、任意の明渡しをお願いすることになる。競売取得は、明渡しに関するコストや手間が軽いのである。ただ、それにしても超高額落札である。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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