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東京競売ウォッチ

2016年5月17日

第322回 堀切菖蒲園の借地権付建物

 競売市場の落札水準が高止まりする中、売却基準価額を下回る競落があると目を引かれる。4月12日開札で、1物件それがあった。

 その物件は京成本線「堀切菖蒲園」駅徒歩約14分に立地する一戸建であった。敷地面積は約43坪であるが、その権利は借地権(賃借権)である。建物は木造2階建ての築17年で、延床面積は約40坪である。間取りは1階に事務所部分がある4LDKで、やや特殊性がある。

 この物件の売却基準価額は1,370万円であったが、これに対し入札は2本に止まり、最高価1,201万円と、売却基準価額を12%以上下回る水準で再販業者に落札されていった。

 さて、この物件の借地権であるが、契約期間は建物が建設された平成11年から20年間で平成31年3月20日までとなっている。

 この物件が多くの入札を集めなかったのは、立地や間取りの特殊性もあるが、やはり借地権であるということが大きい。この物件近隣での同じくらいの規模での所有権物件価格は4,000万円程度の販売価格設定がなされている。それを考えると借地権とはいえ1,200万円強の落札価格はかなり安いように思える。

 しかし、借地権付建物の場合、地主に対する名義変更料の支払いが生じる。この更新料の額はあくまで任意に交渉で決まるものだが、ちなみに評価書では、借地権価格(更地価格3,095万円の60%相当額)の1割で、約180万円強を見込んでいる。

 さらに、この物件を再販に付する場合には、再度の名義変更料を請求されることもある。またエンドユーザーが住宅ローンを使用するとなれば、地主の金融機関への承諾書提出に協力要請が必要となり、加えて契約期間も購入時から20年にしてもらわねばならない。

 こういった地主関連の不透明な商品化への条件をリスクとして再販業者が考えると、入札水準は相当低めに設定せざるを得ないのであろう。とくに本物件は地主が個人であり、ビジネスライクな交渉が纏まりにくい可能性もあるので、これも入札価格の減価要因となっていると思われる。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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