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東京競売ウォッチ

2023年06月27日

第655回 行為能力欠如の住宅ローン破綻

 平成バブル崩壊時には急激な不動産価格低下と不景気による勤労者の収入減少のため、住宅ローン破綻による住宅競売は増加した。しかし近時は住宅ローン破綻と見られる競売物件はかなり減少している。それはまず平成バブル崩壊後に取得した住宅の価格は取得価格からの大きな値下がりがなく、返済に仮に行き詰まっても、物件売却で債務返済できるということがある。さらにそれに加えて融資している銀行が、返済が厳しくなった債務者について融資条件の見直し(返済期間の延長など)を積極的に受けるようになったことで競売移行が減少したこともある。しかしそんな中でも住宅ローン破綻での競売は散見される。

 5月31日開札で都営新宿線「瑞江」駅徒歩約14分に立地する一戸建が競売対象となった。土地は約12.5坪で建物は築15年の木造3階建で延床面積は約17坪である。この物件は新築で15年前メガバンクの住宅ローンを利用して夫婦共有で購入したと見られる。当時の価格は抵当権の内容から類推して約5000万円であったようだ。

 しかし購入後10年以上経過して返済に行き詰まったようで差押えになってしまった。銀行との返済条件見直し交渉か、任意売却による債務精算検討は行われたであろうが、結局競売になった。その大きな理由は債務者が何らかの事故もしくは疾病で行為能力が失われたことにあるようだ。実際に競売実施にあたって債務者に代わって法定代理人の成年後見人(弁護士)が対応している。おそらく債権者の銀行が家裁への申立てで選任された成年後見人であろう。競落結果は売却基準価額1167万円に対し入札18本が集まり最高価2936万円にて競落されていった。このところの住宅ローン破綻はこんな事情が背景にありそうだ。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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