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東京競売ウォッチ

2016年3月22日

第315回 裁判所による無剰余取消

 不動産競売には債権者が差押えして競売手続きを進めようとしても、裁判所がそれを取消すことがある。もちろん競売申立て自体に欠陥がある場合はもちろんだが、「無剰余取消」というのもある。これは競売を申し立てた債権者の債権が、評価された買受可能価額(売却基準価額の8割)で競落された場合には全く回収の見込みがない競売を裁判所が取り消す制度である。

 こんなことが生じるのは、まず申し立てた債権者に先順位の債権者があり、そこへ配当すると申立債権者に配当が回らなくなる場合がある。さらにマンションの場合で、滞納管理費等の額が多額のため、買受可能価額が著しく低くなってしまう場合もこの「無剰余取消」となることがある。

 申立債権者は競落価格が買受可能価額を相当上回ると見られるとき、その根拠等を示し、裁判所に競売を取消させず、続行させることができることもある。また、申立債権者に配当が回る水準にまで入札価格が伸びない場合は、その水準価格で予め申立債権者が買い受ける旨を裁判所に申出し、競売を続行させる場合もある。この申出を民事執行法第63条2項の買受申出といい、その価格を63条2項の申出額という。

 入札者はこの申出額以上でなければ競落はできない。大抵、入札者はそれを理解し、申出額未満で入札はしないものである。しかし、2月23日開札で、台東区のマンションについて、その申出額が設定されているにもかかわらず、13本もの申出額未満の入札があった。

 これらの入札はすべて無効になるのであるが、これほどまでの無効入札をこれまで見たことはない。経験の浅い競売参加者が多くなってきているのかもしれない。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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