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東京競売ウォッチ

2014年12月16日

第259回 土地利用権ない建物だけの物件

 各種メディアで既に報道されているとおり、朝鮮総連本部が占有するビルが、競落人(マルナカホールディングス)に所有権移転がなされた。今後、明渡交渉に進む模様であるが、その進展では紆余曲折もありそうだ。

 ところで、係争がらみの競売物件も時々開札対象となるケースがある。11月20日開札では、土地利用権がない建物だけの物件があった。それは、東急目黒線「不動前」駅徒歩約15分に立地する木造の店舗と、鉄筋コンクリート造の共同住宅2棟(合計床面積約144坪)である。

 これらの建物は敷地(約103坪)に対して借地権(賃借権)であった。しかし、建物所有者は5年前ぐらいから地代を滞納し、地主から土地賃貸借契約を解除され、地主は建物収去・土地明渡訴訟の勝訴判決も得ている。

 このように土地利用権のない建物ではあるが、売却基準価額が2,154万円となっている。この価額は建物の物理的な評価額に加え、土地(更地)の評価額の1割程度の評価額(場所的利益)が加算された価格に対し、4割の減価が施され計算されている。

 土地利用権がなくても土地の利用権をある程度評価するのは、借地借家法上建物の譲受者が地主に対し土地の権利の1割程度を含めた建物買取請求権があることによるのだろう。そして、先の4割の減価が判決(建物収去・土地明渡訴訟原告勝訴)確定による減価である。

 開札結果は1本のみの入札で、3,500万円での競落であった。競落者は競落後、地主と交渉して、改めて借地権を設定する方法がある。しかし話がまとまらなければ、先の建物買取請求権を地主に行使することになる。しかしこの場合、買取価格が競落価格以下になることも予想され、投下資本を回収できなくなる可能性もある。地主の関係者でなければ、ちょっとリスクが高い競落に見える。競売ならではの係争がらみ物件と言えよう。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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