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東京競売ウォッチ

2023年07月18日

第658回 高上乗せ率競落の鉄骨店舗ビル

 競売でマンションへの入札価格は取引事例や売出し事例があり、決定しやすい。一方で個別性が強く取引事例も把握できない物件の入札価格決定は難しい。

 6月21日開札で京成押上線「京成立石」駅徒歩約4分に立地する築38年の鉄骨造6階建ての建物(延床面積約55.5坪)とその敷地が対象となった。土地は南側で幅員15mの公道(奥戸街道)に面する11.3坪弱である。この物件の売却基準価額は1256万円であったが、これに対し31本もの入札があり、最高価5111万円にて個人が落札していった。実に売却基準価額の4倍もの高上乗せ競落である。

 この建物は1階のみ第三者へ月額10万円にて飲食店舗として賃貸しており、その他は所有者及びその関係者によって利用されている。ところでこの建物を全て賃貸運用した場合の収益予想がかなり難しい。というのもこの建物6階建てであるがエレベーターは無く階段のみである。また4階から6階は1つの住居としての利用前提で造られていて、テナント付けは苦労しそうだ。そんなわけでこの物件の評価書では、収益還元価格を導き出すにあたり、年間収益予想は年330万円強(月額27万円強)となっている。延べ床面積が55坪以上あることからは安い感じはするが、階段室の部分が全体床面積の2割以上を占めていることを考えても決して安くない。また敷地は狭小であり土地代相当金額は5000万円に届きそうにない。

 このように特殊な物件においては入札価格の設定はかなり難しい。十分に検討すべきだろう。ちなみにこの競落に対する次順位入札資格者はいなかったので、ある程度突出した競落価格だったようだ。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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