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東京競売ウォッチ

2022年10月25日

第622回 転貸物件の競落は転借人明渡前提か?

 競売不動産において最先の賃借権、つまり抵当権設定登記以前からの賃借権は競落人が承継する最先の賃借権となる。競落人は競落後引き続き賃貸し続けるのが前提だ。ここで問題はその賃借権がサブリース会社であった場合の扱いである。競落人が最先の賃借権を合意のもと解除したとした場合、そこから賃借している転借人に明渡を請求できるだろうか。まず転借人が最先の抵当権設定登記以前に占有を開始しているとすれば、この場合転借人は競落人に賃借権を対抗でき、引渡命令の発令はされないのは当然で、法的に明渡は請求できない。

 しかし、転借人が最先の抵当権設定登記より後に占有しているケースはどうだろう。9月29日開札での大田区の専有面積12.5坪の1LDKのマンションがそのケースである。サブリース会社の賃借権は最先の賃借権であるが、転借人は最先の抵当権設定登記より後の入居だ。この物件空室の方が再販価格は高くなると思われ、競落人は明渡したいところだろう。競落価格も明渡前提での水準であった。

 さてこの場合転借人に対し引渡命令が発せられるかというと、おそらくこれも不可かと思う。それは競落人の代金納付によりその瞬間サブリース会社の賃借権を引き継ぐことになる。そしてその後当該サブリース会社と賃貸借契約を合意解約したとしても、合意解約であれば転借人は物件所有者に賃借権を主張できると考えられる。いずれにしろ明渡は示談で交渉せざるを得ないだろう。最先の賃借権ありのサブリース物件の明渡前提での競落は注意を要する。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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