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東京競売ウォッチ

2015年9月8日

第291回 高円寺の借地権付建物

 競売物件には一般市場よりも大きな割合で借地権付建物がある。8月6日開札では、JR総武中央線「高円寺」駅徒歩約6分に位置する借地権付建物が対象になった。

 敷地は南東側と南側で幅員約1.8mと約2.7mの各公道に接し、広さは約35坪ある。この借地上に築1年の新しい木造2階建ての建物(延床面積約34坪)が建っている。この競売の申立てをしたのは、この建物の施工会社であり、建築後、新築をした借地人が建築代金を支払わず、今回の競売になったようだ。そして敷地の所有者は、まさにお寺の高円寺である。

 この物件の売却基準価額は3,851万円であったが、これに対し、入札は9本あり、最高価4,170万円にて個人が落札していった。

 実はこの物件、今年3月に1回競落されている。そのときも同じ売却基準価額であり、入札は5本で、最高価4,545万円で業者が落札していった。しかし、この業者が代金納付を行わず、再度の期間入札になった。

 競落者が代金不納付としたのは、地主である高円寺との間での売買名義変更料の交渉が纏まらなかったのがその理由だと想像する。3点セット中、評価書を見ると、借地権の名義変更料は約380万円で見積っている。競落者はこの名義変更料をまずは取得コストとして考えることになろう。

 ただ再販業者の場合、一旦自分名義とした後、再販時にもう1回名義変更が必要になる。地主とすれば2回の名義変更料請求が可能ではあるが、競落者である再販業者はできれば1回分の支払いにしたい。この支払回数の問題と、そもそもの承諾料の金額の合意ができず、競落者としては、採算が取れないと判断し、入札保証金(770万円強)を放棄する方が得策と判断したのではないだろうか。

 ちなみに、今回は落札者が自己使用と見られるので、代金不納付になる可能性は低いだろう。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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