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東京競売ウォッチ

2012年7月17日

第144回 都立大学のテラスハウス

 競売物件の中には、入札価格の設定が難しいものがある。大抵は入札価格の設定において、その物件の市場価格(再販価格)から、指定した取得経費や期待利潤を差し引く方法が採られる。

 中古マンションなどは、その点でわかりやすいと言える。しかし、一方で市場価格や、さらにその取得経費について、推量しにくい物件が競売市場には散見される。

 6月21日開札で、東急東横線「都立大学」駅徒歩約14分に立地するテラスハウスが競売対象であった。この物件は築31年を経過した、鉄筋コンクリート造で、長屋形式での登記がなされている。地下1階から地上2階まであり、延床面積は約48坪(間取りは8DK+納戸)である。

 この物件の売却基準価額は632万円と、1坪あたり13万円強という安さである。この破格とも言える安さの原因は敷地の利用権にある。この物件の敷地については、借地権などの敷地利用権が存せず、いわゆる「使用借権」との判定である。しかも、その物件への公道への通路部分の土地は建物敷地とは別の土地になっているが、その土地には使用借権すら存しないとのことである。

 こんな権利関係の物件であるが、結果は入札3本が入り、最高価2500万円にて競落された。

 さらに、この日は西武池袋線「大泉学園」駅徒歩約18分に立地する一戸建て(敷地約16・4坪、建物は木造2階建て、延床面積約18坪)が対象であった。

 この物件も売却基準価額784万円と安かったが、これは建物が築45年である上、接道が建築基準法43条但書道路なので、建替えについては、隣接地権者の同意が必要になることが生じるなどのリスクがある。加えてこの物件内では、自殺者がいた事実もあり、まさにこれも商品価値が見えにくい物件である。

 しかし、そんな中でも入札は3本あり、最高価950万円で落札されている。勇気ある入札者はいるのである。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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