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東京競売ウォッチ

2023年06月20日

第654回 大量荷物の麻布のマンション

 競売物件において一般取引と相違して必要になるコストの中で残置物廃棄費用がある。昨今このいわばゴミ処理に費用が嵩んできている。

 5月31日開札の中に東京メトロ南北線「麻布十番」駅徒歩約3分に立地する築約27年で専有面積約19坪の1LDKのマンションがあった。このマンションは月額21万円にて賃貸されている。この賃借人は抵当権設定後の賃借であり、買受人に占有を対抗できないが、買受人の代金納付後6か月間は明渡猶予を受けられる。この猶予期間については賃料相当額の使用損害金を買受人に支払う必要が生じる。もし1か月でも支払いを怠れば明渡猶予は受けられない。

 さて、この対象マンションの室内写真を見るとまさに山のような荷物があり、足の踏み場もない状況である。明渡を要求するにあたってはこの大量の荷物を持ち出すか、廃棄を併せて求めることになる。しかし、実際のところこういった明渡猶予の占有者は、多くが無価値物の動産を大量に残したまま退去することがよくある。通常普通賃借権で明渡を請求されれば所有者に正当事由があっても、賃借人は明渡費用を収受できるものである。しかし競売故にそれが叶わず、更に敷金の返還も得られないことから占有者としては退去にあたりコストをなるべく掛けたくない心理が働くのである。一方で買受人は残置物処理の費用をこういった占有者に請求は可能であるが、できれば早期の退去を実現させたいことから、その処理コストを負担するケースが多い。従ってこういった場合入札価格が低下することもある。しかし先のマンションは売却基準価額4260万円のところ入札は22本集まり最高価8500万円で競落されている。大量荷物はあまり入札に影響無かったのかもしれない。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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