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東京競売ウォッチ

2013年6月4日

第183回 現金買い前提の不動産公売

 不動産競売市場が活況であるが、もう一つの強制売却市場である、不動産公売はどうなっているだろうか。

 不動産公売は税金の滞納金を回収するために行われるものでる。そして競売と相違して、物件の内容の開示が少ないことや、引渡命令制度がないなど、買受人にとって競売より不利な点が多い。したがって、競売よりも入札参加者が少ないのが実情である。

 さて、5月7日は東京国税局の公売日であった。公売は期日入札と言って、入札と開札は1日で終える。さらに、落札された場合はその後1週間で代金全額を納付しなければいけない。まさに現金買いが前提の制度である。

 この日、5億円を超える競落物件があったのに目を引かれた。その物件は都営地下鉄三田線「芝公園」駅徒歩約4分に立地するビルであった。土地は南側で幅員約20mの公道に面する約140坪で、建物は築40年を超える8階建て、延床面積が約730坪ある。

 この物件の見積価額は3億1,200万円であったが、結果、5億3,880万円にて落札されていった。この物件は以前にも公売にかけられたものの、応札がなく、再評価され、再度今回の売却となった。

 以前入札がなかったのは、やはりこの物件の占有関係にあったと思われる。公売の場合、差押登記前の賃借権を競落人は、引き受けねばならない。また差押後の賃借権については、競落人に引受義務はないものの、競売のように引渡命令制度がないので、明渡しを要求する場合、示談が成立しないと、通常訴訟を提起しなければならない。

 この物件には差押前、後それぞれ複数の賃借権が存する。不動産市場が低迷しているときは、権利関係整理に挑戦する業者は少ない。しかし、昨今のようなインフレ期待が生ずる時代は、挑戦者が現れる。この落札も、そんな時代の変化を表していると言えそうだ。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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