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東京競売ウォッチ

2013年9月10日

第196回 既存不適格のアパート

 現在の不動産市場の特徴として、収益不動産の需要がかなり高いということがある。とくに、個人投資家向きの1億円未満のアパートなどは、相当に需要過多であるように聞く。

 8月1日開札で目を引いたのが、西武豊島線「豊島園」駅徒歩約5分に立地する、アパートである。土地は約29坪、建物は築43年を経過する木造の共同住宅で、延床面積約28坪である。建物の間取りは2K中心の全4戸で、賃料収入は年約230万円である。ちなみに賃借人全員が最先の賃借権として、競落人に対抗できるので、明渡、再築には障害がある。

 この物件の売却基準価額は1,015万円であったが、これに対し入札48本が集まり、最高価2,522万円にて個人が落札していった。

 この落札水準は収益利回りで考えれば、表面9%程度であるので、高すぎるとは思えない。しかし、建物はかなり老朽化していること、そして何よりも、土地が敷地延長の形状のため、共同住宅が再築できないという条件を考えるならば、ちょっと話が違ってくる。

 周知のとおり、東京都安全条例によれば、敷地延長である土地には共同住宅の建築確認は下りない。将来的に建替えとなっても、この土地には専用住宅しか建築できないのである。

 現状はまさに既存不適格であると言え、銀行などはこういった不動産については購入資金融資を行わないだろう。しかし、本物件は総額が比較的小さく、多くの投資家が現金購入可能であるということもあって、入札本数が多かったと思う。

 また、競売物件であったことが(競売は得であるという思いから)むしろ既存不適格でも売却されやすかったという側面があるかもしれない。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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