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東京競売ウォッチ

2016年2月16日

第310回 売却価額1万円の区分事務所

 中古マンションの取引活発化は住居以外の区分所有事務所や店舗にまで影響が及んできているのだろうか。

 1月21日開札ではJR東北線「尾久」駅徒歩約7分に立地する区分所有の事務所に入札10本が集まった。この物件、売却基準価額は1万円である。

 売却基準価額算出根拠である「評価書」を見ると、滞納している管理費等(700万円超)が物件評価額を上回っている。計算に従えば売却基準価額はマイナスになってしまう。マイナスの売却基準価額はあり得ないので、最低の1万円に設定された。ちなみに売却基準価額が1万円ということは買受可能価額8,000円にて競落される可能性がある。そうした場合には、競売手続きに要した費用を賄い、そのうえで債権者に配当を行うことは不可能である。

 よって裁判所は、こういった競売を原則「無剰余取消」する。しかし、債権者はこれを防止する方策の一つとして、自らが負担した手続き費用を放棄する代わりに、競売を進めてもらいたい旨の届出を裁判所にできる。これが「剰余の生ずる見込みある旨の届出」である。先の売却基準価額1万円のマンションも、この届出がなされたものと思われる。

 ところで、この物件は一度、昨年8月に300万円で落札されたが、代金不納付で再度このたび競売に付されたようだ。

 そして今回は、前回の落札価格を上回る最高価357万円強にて競落されていった。中古マンション市場活況の表れだろうか。

 ただこの物件、入札保証金が2,000円であるので、代金不納付でもわずか2,000円の損害しかない。よって、再び競売市場に戻る可能性も否定できないだろう。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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