リアナビ

スペシャリストの眼

東京競売ウォッチ

2016年7月19日

第331回 西葛西のマンション専有23坪

 先週はタワーマンションへの入札価格に上限が見えてきたかと思われるような競落事例を紹介した。しかし、一方で旧耐震物件でありながら、上乗せ率100%を超える事例も見られた。

 その物件は東西線「西葛西」駅徒歩約12分に立地する専有面積約23坪の4LDKの部屋であった。この物件の売却基準価額は1,035万円であったが、これに対し入札19本あり、最高価2,565万円にて再販業者と見られる会社が落札していった。売却基準価額に対し、150%近い上乗せ率での競落である。この競落結果の背景には、この地域で、専有面積が23坪程度で3,000万円台前半までの価格帯の物件にニーズがあるということがありそうだ。

 新築マンションであれば、昨今の建築費高騰から販売価格が5,000万円程度にはなってしまう地域である。管理状況が良好であれば、この価格帯の中古ファミリーは流動性が高いと思われる。

 ところで、このマンションの占有者は抵当権設定後の賃借人であるが、2年ほど前まで、この部屋を所有していた。そして売却したと同時に、買主から賃借した形である。種々の状況から鑑み、売買は抵当権付で形式的に行われた可能性が高い。

 しかし、このような形式的売買で生じた賃借権であっても、民事執行法では抵当権設定後の賃借権として、通常の賃借権と同様に扱われる。よって占有者には明渡猶予6カ月が与えられる。

 これは、ある意味、合法的に債務者の引渡遅延策と言えるのではないだろうか。今後、住宅ローン破綻者が抵当権付で知人に売却したうえで、そこからそのまま賃借し、競落後、明渡猶予を受けるということが増加するかもしれない。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


BackNumber


Copyright (c) 2009 MERCURY Inc.All rights reserved.