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東京競売ウォッチ

2016年6月7日

第325回 借地権付建物の競落リスク

 競落競争が激化する中、借地権付建物にも多くの入札が集まることがよく見られる。また物件によっては競落水準も高まっている。

 4月21日開札では、JR総武線「平井」駅徒歩約6分に立地する店舗・作業所兼共同住宅に多くの入札が集まった。

 この物件は、借地権の敷地が約40坪で、南東側で幅員26mの公道(蔵前通り)に面している。建物は築26年強の鉄骨造4階建て、延床面積は約114坪ある。年収が全部で900万円程度は見込める物件であるが、売却基準価額は2,657万円であった。地代や固定資産税等を考慮しても年30%近い利回り水準の価格である。高収益率が人気を呼んだか、18本もの入札があり、最高価5,555万円にて競落されていった。借地権付建物ながら売却基準価額の2倍を超える競落である。

 高い競落水準ではあるものの、譲渡承諾料(評価書の見積は300万円強)を考慮しても、年13%超の利回りを期待できそうだ。ただ気になるのは、地主の「介入権」である。借地権付建物の競落人は競落後、地主に譲渡承諾を求めることになる。しかし、もし地主が承諾をしないときには、競落人は裁判所に(地主に代わる)譲渡承諾を求めることができる。これを「譲受許可の申出」という。

 そして地主は、この申出がなされた場合には、借地権(及び建物)を裁判所に申し立ての上、買い取ることができる。これが介入権である。

 このときの買取価格は一般取引価格になるのであるが、それは評価書の数字が参考になると思われる。ちなみに、評価書ではこの借地権付建物の正常価格は約4,750万円である。これは競落価格より低い価格であり、したがって介入権行使により、競落人が譲渡損を被る可能性も否定できない。地主の介入権行使は借地権付建物の競落リスクの一つである。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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