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東京競売ウォッチ

2012年6月12日

第139回 開札対象から外れる取下げ

 競売物件では開札日の前日までは、開札対象から外れる物件がある。理由として最も多いのが「取下げ」である。

 取下げは主に任意売却により、競売の対象となっている債権が債権者に弁済されたことによって、競売が中止になるものである。「延期」という中止理由も任意売却が成立しているが、決済が未了である場合である。他に「停止」や「取消」といった任意売却以外での開札中止もある。そしてこれらの理由での開札中止は、以後入札対象物件にほぼならない。

 しかし、「変更」という理由での開札中止については、数カ月後に再び入札対象になることが多い。5月17日開札になった、JR中央線「大久保」駅徒歩約2分、約115坪の土地は、今年1月19日に開札予定であったものが、「変更」という理由で開札が中止された。

 さて、この「変更」の内容は、所有者からの異議申立てであったが、その異議の内容の中に、本件土地の隣地に反社会勢力の事務所があるという事実が示されていた。そして裁判所が、今回の公開された事件記録に添付して、報告書という形で、この事実を公開している。

 結局、この暴力団事務所が隣地に所在することは、売却基準価額の減額等にはならず、前回と同条件で、入札を受け付けることになった。売却基準価額は4億1,169万円で坪約357万円である。駅近の商業地であり、周辺相場からすると安いと思われる水準である。

 しかし、結局入札は1本もなく、不売にて特別売却物件となった。そして、特別売却期間最終日にも応札がなく、おそらくは売却基準価額を見直し、再入札になるであろう。

 暴力団排除の機運が高まる最近では、物件の売却時には隣地が暴力団事務所であれば、この事実を重要事項説明書に記載することが宅建業者に課されている。

 競売物件の評価にあたっても、今後は、こういったことが斟酌されるべき事項になっていくかもしれない。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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