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東京競売ウォッチ

2014年5月13日

第229回 占有者に明渡しの6カ月猶予

 建築費が高騰している話はこのところよく耳にする。専有面積20~22坪の3LDKタイプのマンション1ユニット当たりの建築原価は2,000万円に及ぶという。これでは、用地費や金利・利益を考慮すると、1戸当たり3,000万円以内の新築マンションは供給できないことになってしまう。

 そんな市況の中、4月10日開札では東武伊勢崎線「竹ノ塚」駅徒歩約20分の3LDKのマンションに22本の入札があったのに目を引かれた。足回りが決して良いとは言えない物件であるが、築8年と比較的新しいこともあってか、売却基準価額1,222万円に対し、その1.6倍超の1,965万円にて競落された。

 さて、同じく4月10日開札で、足立区のマンションが開札になったが、その物件の占有者の占有に関する裁判所の考え方に目を引かれた。

 このマンションの占有者は所有者に対する貸金の債権回収手段として、物件を占有している(賃料相当額を返済金と考えている)。

 こういった占有は本来の利用目的ではない、非正常な賃借権である。こういう賃借権はかつて民法改正前で短期賃借権が存在していった時代では、守られる権利ではなかった。したがって、買受人は代金納付後、即明渡しを請求できた。

 しかし、今回のこのマンションの占有者には、賃借権の存否は不明としながら、明渡しの6カ月猶予が与えられる考えが物件明細書に記載されている。

 これはつまり、明渡しの6カ月猶予は、それが債権回収目的の賃借権者であっても認められるということである。

 不法占有による占有妨害にこの猶予制度が利用されることも考えられるので、入札者は注意を要する。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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