リアナビ

スペシャリストの眼

東京競売ウォッチ

2011年9月20日

第107回引渡命令が出ない建物

 競売不動産は幾度もの民事執行法民法などの改正によって、買受人が購入しやすくなってきた。とくに、引渡命令の適用範囲が広がったことは大きい。

 引渡命令は明渡しの強制執行を行える「債務名義」であるが、通常の明渡訴訟などに比べ、簡便かつ安価に取得できるものだ。

 バブル経済崩壊直後、使用借権に基づく占有者は買受人に対し占有権限を対抗できないものの、引渡命令の対象にはならず、使用借権を占有妨害に利用されることがあった。その後、この使用借権者に対しても引渡命令が発令されるようになり、さらには短期賃借権の廃止なども行われ、買受人優位の改正が続いてきた。

 しかし、現在でも競売対象の土地の上に存する建物で、占有権原がないもの、つまり買受人に対抗できない売却外の建物については、引渡命令をもって、その建物の法的な強制取り壊しはできない。

 こういった場合は、その売却対象外の建物の所有者相手に、建物収去・土地明渡訴訟を起こさねばならないのである。

 9月1日開札において、東京メトロ丸ノ内線「赤坂見附」駅徒歩約9分に立地する約53坪強の土地が対象になった。この土地の上には、占有権原がない建物が3棟建っている。

 先に述べた通り、この土地の競落人は建物の所有者と話合いによって任意に建物を収去できない場合、引渡命令ではなく、通常訴訟を要することになる。ちなみに、この土地の評価書においては、建物に占有権原はないものの、「場所的利益」と称して10%の減額を計算上施している。

 結果は売却基準価額9,898万円に対し、入札6本が入り、最高価1億4,963万円にて競落されていった。建物の収去リスクを考えても魅力ある物件であったようだ。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


BackNumber


Copyright (c) 2009 MERCURY Inc.All rights reserved.