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東京競売ウォッチ

2012年8月21日

第148回 茗荷谷の借地権付建物

 競売市場には、借地権付建物が結構多く含まれている。これは、地主との賃貸借契約の名義変更等に関して、条件がうまくまとまらず、任意売却が実施できないケースが多いのが一因だろう。

 また、借地権者が更新料の支払いをしないことから、賃貸借契約が合意更新されず、法定更新中の場合もある。

 こういった場合に地主としては、借地権譲渡が生じれば、未受領分の更新料をその際に回収したいと考えるので、任意売却処理がさらに進みにくい。

 7月19日開札において、東京メトロ丸ノ内線「茗荷谷」駅徒歩約7分に立地する借地権付建物が競落されていった。借地権であるにも係わらず、13本もの入札が集まった。

 この物件、建物は築37年強の木造2階建てで、延床面積約29坪、借地権の対象土地は、南東側で幅員3m強の公道(2項道)に面した延約33坪である。

 この条件で売却基準価額は1,597万円であったが、これに対し、競落価格は6割以上上乗せの、2,651万円であった。

 さて、この借地権付建物の借地人は約2年前、地主との間で、借地契約期間満了に伴う借地契約の合意更新ができていない。更新料の支払いができず、まさに先述のように法定更新の状態になっていたのである。そういう状態の中、今回競売の申立を受けることになってしまった。

 さて、このような場合、地主は競落した買受人に対し、名義変更承諾の際に従前借地人の未払い更新料を請求できるのだろうか。

 おそらく法的には買受人には支払い義務はないように思う。しかし、実際には地主の承諾がなければ、賃貸借契約の名義変更はできないので、この費用(未払更新料)負担問題は避けては通れないように思う。

 この物件の評価書中でも、この件に関し、紛争の可能性を考慮して、借地権評価額を2割減じている。好立地で大量入札はあったが、競落後の地主との交渉は、結構骨が折れそうだ。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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