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スペシャリストの眼

東京競売ウォッチ

2023年09月05日

第664回 占有偽装に注意

 今年に入り、占有を偽装し、明渡料などを収受しようとする競売妨害についての相談が複数あった。一つの例では入札前の物件明細書に「所有者が占有」とあり、また現況調査報告書には「室内は動産類がほとんど存在せず、空室の状態である。」と記載されているマンションである。そこを競落した会社に、差出人は「執行手続を守る会 ○○〇〇」とし、「通知書」のタイトル次の内容の文書が送付された。

 ①自分は占有権原が無い占有者である。②自分は物件を事実上支配している。③裁判所執行官が自分を占有補助者と認めている。④引渡を受けたいなら自分と任意の明渡交渉するか引渡命令を経由して強制執行せよ。⑤自分に連絡をせよ。連絡なく自分の占有権を奪えば「侵奪罪」にあたる。⑥本書到達後10日以内に自分に連絡が無ければ「価格減少行為」を行う。というものである。

 これはかつて横行した「貼り紙屋」と同様手口の競売妨害である。それは空室の物件に「この部屋を占有しているのは私である。引き渡しを受けたいのなら私に連絡しろ。」という貼り紙をして、連絡してきた競落者に法外な明渡の示談金を請求するというものだった。さらに加えて先の手紙に似た内容の内容証明書を送りつけてきたケースもあった。もちろん実際には占有はしておらず、虚偽の通知等に反応して連絡してきた競落者から示談金をせしめるという、数を打てば当たるの悪質行為である。いずれにしてもこういった競売妨害者に対して連絡を取ることは慎まねばならない。また引渡命令申立ても行ってはならない。引渡命令申立てを行えば却って占有を認めたことになりかねないのである。

 競売の空室物件、令和の貼り紙屋にご用心である。

山田 純男(やまだ・すみお)

1957年生まれ。1980年慶應大学経済学部卒業。三井不動産販売およびリクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務後、 2000年ワイズ不動産投資顧問設立、及び国土交通省へ不動産投資顧問行登録(一般90号)。主に投資家サークル(ワイズサークル会員)を 中心に競売不動産や底地などの特殊物件を含む収益不動産への投資コンサルティングを行っている。 著書に「競売不動産の上手な入手法」(週刊住宅新聞社、共著)「サラリーマンが地主になって儲ける方法」(東洋経済新報社)がある。 不動産コンサルティング技能登録者、行政書士、土地家屋調査士有資格者。


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