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「斜め45度」の視点

2024年02月06日

第421回 能登半島で観察された「地震に伴う火災」と「津波に伴う火災」の違い

 2024年1月24日、「京都大学防災研究所」の西野智研准教授は、「2024年能登半島地震に伴う地震火災・津波火災について」(速報)と題する論文を公表しました。
 URL< https://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/contents/wp-content/uploads/2024/01/Nishino_20240122_Fire-following-earthquake-aspects-of-the-2024-Noto-Peninsula-earthquake.pdf>

URL< https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/kisya/journal/kisya20240115.pdf>

[■■]「地震火災」と「津波火災」の違い

 このうち「地震火災」とは、地震によって発生する火災のことです。 建物が密集する市街地では、地震発生後、同時多発的に建物で出火することによって、延焼範囲が拡大すると予測されています。このように、「地震火災」は直感的に理解し易いと思われます。

 これに対して、意味が分かりにくいのが「津波火災」です。「津波」がきて水が溢れているのに、どうして「火災」なのでしょうか?

 実は、「津波火災」とは、津波の浸水被害を受けた地域で発生する二次災害(複合災害)を意味しています。すなわち、必ずしも「火災」が発生するとは限らないため、用語としては「分かりにくい言葉」なのです。

 西野准教授は、「速報」の目的を次のように説明しています。
 ■1「能登半島地震に伴う火災」の広域的な発生状況を整理する。
 ■2「延焼拡大した火災(輪島市の地震火災・珠洲市の津波火災)」の特徴や原因を探る。
 ■3「過去の大震災を踏まえた『今回の火災の捉え方』および『火災リスクの軽減策』を考える。

[■■] これまでに実施した調査

現地火災被害調査
消防本部への電話ヒアリング
火災映像写真収集
火災の発生場所
火災の状況

【人口一人あたり出火率 vs 最大地動速度(下図)】

 紫色の太線は今回の「能登半島地震」の出火モデル
 それ以外の6本の線は「1995年から2022年までの主要6地震」の出火モデル

(注1)今回の地震の出火率(紫色)は、2011年東北地方太平洋沖地震の(赤色)より大きい。
(注2)しかし、1995年兵庫県南部地震(青色)より小さい。

[■■] 今回の地震に伴う火災をどう捉えるべきか

 今回の地震では、輪島市の沿岸市街地で津波浸水の可能性と地震火災の発生が重なり、これが住民による初期消火や消防隊の対応を阻害する要因となった可能性が独特である。

 しかし、基本的には、1995年兵庫県南部地震の地震火災、2011年東北地方太平洋沖地震の津波火災と同じような現象が小さな規模で起きており、火災の現象に特異な点はあまりないと思われる・・・。

 西野准教授の論文は、かなりの力作です。そして、「我々日本人は、地震および津波に耐えていかなければならない宿命を負わされている」事実を、改めて気づかせてくれました。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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