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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年12月4日

第303回 新築タワーマンション「価格の法則」を発見(前編)

 東京カンテイは、不動産情報誌『kantei eye』(97号)で、「新築タワーマンションの供給動向」に関する特集を実施。それに合わせて、「プレスリリース」も発行した。
<https://www.kantei.ne.jp/report/97TM_SUR.pdf>

 この特集およびプレスリリースは、不動産関係者にとって「必読」というべき、優れた内容になっている。特集は4章から構成される。

 Ⅰ章「タワーマンションの供給動向」
 Ⅱ章「タワーマンションのストック数」
 Ⅲ章「高層化するタワーマンションの変遷」
 Ⅳ章「所在階による間取りや価格の違い」

 私はこのうち、Ⅳ章「所在階による間取りや価格の違い」に注目して、詳しく読み込んだ。

 ただし、『kantei eye』や「プレスリリース」には、小さな数字を詰め込んだ多数の図表が並んでいる。そのため数字を眺めているうちに、目がクラクラしてきて、何が何だか分からなくなってしまう。よってここでは、なるべく記憶に残るように、エッセンスだけを抽出するように心がけた。

■■■■■1995年〜99年に竣工

 まず、「プレスリリース」に掲載された表をベースにして、筆者が描いた5枚の図を、じっくり見ていただきたい。


 図1には、「1995年〜99年に、東京23区に竣工した、50階以上のマンション」を対象に、「9階以下、10階〜19階、20階〜29階、30階〜39階、40階〜49階、50階以上」という階層別に、「新築分譲時の平均坪単価」をグラフにまとめた。

 9階以下   ─平均坪単価274万円─100.0
 10階〜19階 ─平均坪単価320万円─116.5
 20階〜29階 ─平均坪単価338万円─123.1
 30階〜39階 ─平均坪単価333万円─121.2
 40階〜49階 ─平均坪単価382万円─139.2
 50階以上   ─平均坪単価508万円─185.2

 このうち、平均坪単価の後に続く数字は、9階以下の平均坪単価を100としたときの、各階層ごとの平均坪単価の割合を示している。

 図1を見ると、陸上競技の三段跳びで行う「ホップ、ステップ、ジャンプ」を少し修正した、「ホップ1、ホップ2、ホップ3、ステップ、ジャンプ」の五段飛び方式に近い感じである。

 すなわち、スタート地点の9階以下(100点)から、「ホップ1」で10階〜19階の「116.5点」、「ホップ2」で20階〜29階の「123.1点」、「ホップ3」で30階〜39階の「121.2点」の地点に到達。

 続いて「ステップ」で40階〜49階の「139.2点」の地点に上昇し、最後に「ジャンプ」で50階以上の「185.2点」へと飛躍している。

 最後の「ジャンプ」について、『kantei eye』は、次のように述べている。

「タワーマンションでは高層階ほど眺望が良く、住戸自体の希少性や高層階で暮らすことに対するステータス性なども相まって、最上階の住戸が一段と高額な水準に設定されることも珍しくはなかった」。

■■■■■2000年〜04年に竣工


 図2(2000年〜04年)では、スタート地点の「100点」から、ホップ1・2・3で「124.0点」、ステップで「138.8点」、ジャンプで「174.1点」へと到達する。

 図1(1995年〜99年)が最後のジャンプで「185.2点」に到達していたのと比較すると、図2は最後のジャンプ力が「11.1点」ほど下回っている。

 「2000年〜04年には、住戸の階層が10階ずつ上がるにつれて、平均坪単価の割合も概ね10ポイントずつ上昇する傾向が認められた。また最高層階では、プレミアムの高さが加味され、さらにポイントが上積みされた」(『kantei eye』)。

■■■■■2005年〜09年に竣工


 図3(2005年〜09年)では、スタートの「100点」から、ホップ1・2・3で「116.2点」、ステップで「120.9点」、ジャンプで「138.1点」に到達する。

 これは図1(1995年〜99年)・図2(2000年〜04年)と比較すると、「40〜49階へのステップ力」および「50階以上へのジャンプ力」ともに、大幅にダウンしていることが分かる。

 「2005〜09年には、住戸の階層が上がっても、平均坪単価の上昇は概ね数ポイントにとどまった。すなわち最上階を除く階層では、価格の平準化が進んだ」(『kantei eye』)。

■■■■■2010年〜14年に竣工


 図4(2010年〜14年)では、スタートの「100点」から、ホップ1・2・3で「118.4点」、ステップで「125.2点」、ジャンプで「136.3点」に到達する。

 これは図3(2005年〜09年)に似かよった傾向である。すなわち、最上階を除く階層では、「価格の平準化」が一般化している。

■■■■■2015年〜20年に竣工


 図5(2015年〜20年)では、スタートの「100点」から、ホップ1・2・3で「108.7点」、ステップで「112.6点」、ジャンプで「124.2点」に到達する。

 すでに示した図4(2010年〜14年)では、ホップ1・2・3で「118.4点」、ステップで「125.2点」、ジャンプで「136.3点」に到達していた。

 すなわち図5は、図4と比較してホップ1・2・3で「マイナス9.7点」、ステップで「マイナス12.6点」、ジャンプで「マイナス12.1点」を記録したことになる。すなわち、最上階も含めて、「価格の平準化」がさらに進行したのである。

 この「価格の平準化」を、改めて確認するために、棒グラフの頂点を折れ線で結んだ、「図5折れ線グラフ版」を作成することにした(下の図)。


 私はこの図を眺めながら、次のような感慨にとらわれた。

 「タワーマンションの新築価格グラフは、価格の平準化が進行した結果、全体として階層が上がるにつれて数値が直線上に少しずつ上がり、最高階層ではプレミアム分だけ傾斜がきつくなった、“2本の直線”に収束している」。すなわち、新築タワーマンション「価格の法則」を発見したのである。

 なお、収束とは、「まとまっていく」「近づいていく」という意味である。このとき、何かひらめくものがあった。

 「ディープラーニング(深層学習)を応用して価格を合理的に決めると、タワーマンションの新築価格グラフは2本の直線に収束していくのではないか」・・・。

 最後に、少し風変わりな図をお見せする。各年代ごとに竣工した分譲マンションについて、新築時の平均坪単価を「9階以下の住戸」と「50階以上の住戸」に分けて比較した図である。


 バブル景気(1986年〜91年)が過ぎた「1995年〜99年」に竣工した物件であっても、「9階以下の住戸」および「50階以上の住戸」ともに、平均坪単価はダントツに高かったことが一目瞭然である。

 しかし、「2000年〜04年」に竣工した物件は、「9階以下」および「50階以上」ともに、平均坪単価は一気にダウンした。

 けれども、その後の時間経過とともに、平均坪単価は着実に上昇してきている。2020年に開催される東京五輪の後でも、この勢いを維持できるのだろうか。

 以下、後編。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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