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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2010年6月22日

第19回 分譲マンションの「太陽利用元年」

 住宅メーカーはエコ住宅の普及に向けて勢いよく走り、「太陽光発電は当たり前」と考える会社が多い。これに対して、かなり腰が重かったマンション各社も、分譲マンションの各住戸に太陽熱や太陽光電力を供給する、本格的な「太陽利用」に乗り出した。

 大和ハウス工業、三井不動産レジデンシャル、長谷工コーポレーションの3社は、屋上に大規模な「太陽熱パネル」を設置した、「ザ・レジデンス千歳船橋」を2011年2月に完成させる。

 このマンションのエネルギー供給は、「太陽熱パネル、住棟セントラルヒーティング、電力・ガス一括購入」の3本柱方式。東京都で最大の規模という、総面積658平方メートルの太陽熱パネルで暖めた温水は、いったん住棟地下1階の大型タンクに貯える。その後、必要に応じてガスボイラーで加熱。各戸に約60度の温水として供給し、給湯と床暖房に利用する。また、電気とガスを一括購入して、住戸ごとの個別契約よりも安価に抑える。

 光熱水道費は専有面積75平方メートル、3人家族の場合、従来型のマンションに比べて年間で約8万円安くなる。一方、太陽熱利用に伴う費用が月額管理費に約1500円、修繕積立金に約1000円上乗せされ、年間で3万円になる。差し引き、年間5万円を節約できる。

 これに対して大京は、首都圏で初めて、「太陽光発電システム」により各住戸に電力を供給する、「ライオンズたまプラーザ美しが丘テラス」を、2011年3月に完成させる。屋上に約500平方メートルの太陽光発電パネルを設置して、全体で70kW、1戸当たり約0.9kWの電力を確保し、使用電力を約20%削減する。

 太陽光発電システムには、NTTファシリティーズが開発した「自動検針通信機能付き電力メーター」を導入。従来なら売電用および買電用の2メーターが必要になるのを、1メーターに簡約化し測定も自動化した。これにより、共用部だけではなく、専有部(各住戸)への分配も可能になった。太陽光による電力は専有面積に比例して分配し、メンテナンスも管理組合が一括して行う。長期修繕計画では、太陽光システムは20年で更新の予定。

 マンション各社は、建設コスト増を住戸価格の1%程度に収め、光熱水道費の削減など目に見える効果があれば、ユーザーの支持を得られると判断している。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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