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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2011年6月28日

第35回免震マンションでも家具や什器が転倒

 日本で発行される週刊誌、月刊誌のほとんどが、東日本大震災に関する特集を組んだと思われる。その中で、「これは大変だなぁ」と考え込む記事があった。『宝島』7月号に掲載された、羽衣えるさんの漫画「激揺れ311大地震@タワーマンション高層階」である。

 羽衣さんは、45階建て、免震構造、新築マンションの31階に居住。その日、巨大地震によって、家具や什器が転倒したり、キャスター付きの椅子やキャビネットが激しく移動して、恐い目にあったことを、ユーモラスにまとめている。

 これは大変と思ったのは、免震構造という説明があったからである。要するに、免震構造にして、各階の揺れを1/2~1/5に収めたにもかかわらず、実際には家具や什器の転倒を防げなかったのである。また、羽衣さんは、それから2週間くらい「地震酔い」に悩まされ、治るまで真っ直ぐには歩けなかったという。

 揺れを収めるための、より効果的な方法はないのだろうか。改めて耐震構造、免震構造、制震構造について調べてみた。

 【耐震構造】

 ①地震の揺れに、「ひたすらがんばって耐える」。

 ②耐震等級は、建築基準法と同等の耐震等級1、建築基準法の1.25倍の強さを持つ耐震等級2、建築基準法の1.5倍の強さを持つ耐震等級3がある。

 【免震構造】

 ①免震構造は、免震装置により、「地震の揺れから免れる」。

 ②地震の揺れを1/2~1/5に低減する。

 ③建物内部の家具・什器の転倒を防ぐ。居住性に優れている。

 ④長周期地震動に対する有効性は、最新のデータを入力して、改めて確認しなければならない場合もある。

 ⑤スレンダーな建物には向かない。

 ⑥定期点検、臨時点検が必要になる。

 ⑦40~60センチの揺れ代(クリアランススペース)が必要になる。

 【制震構造】

 ①制震構造は、ダンパーで揺れを吸収し、「振動を制する」。

 ②性能は、ゼネコン各社によって、千差万別。スーパーゼネコンなら、地震の揺れを1/2~1/3に低減できる技術を持つ。

 ③建物内部の家具・什器の転倒を防げるとは限らない。

 ④風揺れや、長周期地震動に最適。

 ⑤建物の形状に関係なく、広範囲に採用可能。

 ⑥点検フリーなタイプから、点検が必要なタイプまである。

 このように並べてみると、免震構造が地震の揺れを1/2~1/5に収め、制震構造が1/2~1/3に収めるのだから、最強の手段は免震構造と制震構造の組み合わせということになるのだが・・・。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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