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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2020年2月25日

第344回 集中連載⑬ 風評被害〜台風19号がもたらした新たな災害

 「マンションみらい価値研究所」が2019年12月、「風評被害〜台風19号がもたらした新たな災害」と題する、研究レポートを公表しました。被害を受けたマンションの住民と、その管理組合への思いやりにあふれた優れた内容です。

 同研究所は大和ハウスグループのマンション管理会社、「大和ライフネクスト」が2019年10月に設立しました。

 その目的は、「分譲マンションの長期にわたる適切な維持管理や、様々な課題に対する有効な解決策を公開し、マンションの新たな価値創造に寄与すること」。そのためウェブサイトに、各種のレポートを公開しています。

 <https://www.daiwalifenext.co.jp/miraikachiken/index.html>

【■■】マンション防災の対象に「風評」を加える時

 次のURLをクリックすると、研究レポート「風評被害〜台風19号がもたらした新たな災害」の趣旨を紹介した前文(リード)があります。

 <https://www.daiwalifenext.co.jp/miraikachiken/report/Report_003.html>

 ──2019年の台風第19号では、タワーマンションに対する風評被害が広がっている。まさに「風評災害」の発生である。

 過去の災害でも、大きな被害を受けた特定のマンションに対する風評被害はあった。しかし、それについて論じられることは少なかった。

 今回はその被害が顕著に現れている。マンションにおける風評災害についても検討する時期にきている。被災者にとってみれば、日常生活の不便性にとどまらず、連日の報道や心ない中傷により二重に被害をうけているといっても過言ではない。

 タワーマンションの被害は対岸の火事ではない。いつ、どのマンションでも起きる可能性がある。

 東日本大震災の後、福島県の農産物や東北地方の観光地に風評被害が広がった。あの震災から7年を経過し、この被害を調査、研究した報告書もある。これらの報告書からは、マンションの風評被害への対応策に応用できるものも多い。

 マンション防災は、地震や台風ばかりでなく、風評についても同時に「防災対策」に含める時がきている──。

【■■】管理組合内外の情報を収集・分析する機関の必要性

 前文(リード)の後に、「レポート本体」(PDF、A4タイプ、5ページ)が続きます。

  <https://www.daiwalifenext.co.jp/miraikachiken/report/pdf/Report_003_191126.pdf>

 以下の4章で構成されています。

 1章 風評災害の発生
 2章 マンションにおける風評被害の負のサイクル
 3章 マンション特有の風評被害
 4章 東日本大震災で調査・研究された風評被害 

 全体として管理組合の理事だけではなく、仕事で分譲マンションに関わる多くの人に、ぜひ目を通してもらいたい充実した内容です。

 ここでは、4章「東日本大震災で調査・研究された風評被害」から、武蔵小杉のタワマン浸水被害にも当てはまる、2個所を引用します。

 ◆引用その1

 ──これまでの災害で、日本のマンションは風評被害により大きな影響を受けた。そこで、管理組合は理事会内に、災害の発生時に壊滅的な打撃を受けることを未然に防ぐため、管理組合内外の情報を収集・分析することを使命とする機関を設立した。

 理事会は、大規模災害が発生した場合、まずその直後に、現地情報(災害等の状況、電気、水道、通信等のインフラの状況等)を収集するとともに、国内外での報道の様子や反応を確認し、収集した情報をもとに講じるべき対策を検討する。

 そして理事会の情報発信担当部門に、収集した情報および現状分析の結果を伝達する。民間事業者やマスコミ等の外部への情報発信は、情報の混乱や誤りを防ぐために、理事会内では同部門が一元的に行う──。

 ◆引用その2

  ──ひとたび風評被害が発生してしまった場合、その克服はどうするのか。復旧後は早い段階から安全なマンションであることを宣言し、管理組合が一丸となって対応できていることを、積極的に世の中に発信することが必要となろう──。

【■■】5棟の「パークシティ武蔵小杉」がもたらした混乱

 研究レポート「風評被害〜台風19号がもたらした新たな災害」の主張は明解です。しかし、ここから先は、話が一気に「???状態」になっていきます。

 その主な原因は、武蔵小杉エリアに「パークシティ武蔵小杉」という名前のタワーマンションが、実に5棟もあることです。

 パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー
 パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー
 パークシティ武蔵小杉ザ グランドウイングタワー
 パークシティ武蔵小杉ザガーデン タワーズウエスト
 パークシティ武蔵小杉ザガーデン タワーズイースト

 名前を眺めているだけで、頭がクラクラしてきませんか。

 このうち、浸水被害が発生したタワマンは、「パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー(地下3階・地上47階、総戸数643戸)」です。

 私が調べた範囲では、2019年10月中旬〜12月下旬までの期間は、同マンションの「公式ウェブサイト」は見当たりませんでした。しかし2020年1月上旬には、同マンションの「公式ウェブサイト」を見ることができました。

 浸水で公式ウェブサイトがダウンしていたけれど、マンションが復旧するにつれてウェブサイトも回復した、ということのようです。

 <https://stationforesttower.com>

 そのためまず、「What's NEW(過去のニュース)」を隅々までチェックしました。しかし、「台風19号に伴う浸水被害」に関しては、どこにも記載されていませんでした。

 念のために、「防災・防犯」「理事会・委員会」などの欄もチェックしたのですが、浸水被害についての記載はまったく見当たりません。

 ただし、ウェブサイトには「居住者専用ページ」があるので、そこに記載されているのかもしれません。

【■■】「ミッドスカイニュース」欄に掲載された「驚くような記事」

 その一方で、同タワマンと似た名前の「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー(地下3階・地上59階、総戸数794戸)の公式ウェブサイトには、「そんなことがあったのかと、驚くような記事」が掲載されています。

 <https://www.midskytower.com>

 2019年10月13日付けの、「ミッドスカイニュース」欄から引用します。

 ──某ブログニュースは、ミッドスカイタワーの「下水処理設備がやられた」、「住民に対して各住居でのトイレの使用を禁止した」、「各階のゴミステーションに設置した簡易トイレを使うよう通達が出た」と記しています。しかし、これは間違っています。

 誤報の原因は、「パークシティ武蔵小杉」という名前のマンションが、5件あることだと思います。

 当マンション「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」に関する限り、「台風19号の影響を受けることなく、各住戸および共用部とも、設備は通常通り使用できていること」を、ここに明言します。

 今このニュースブログをお読みの皆様は、「私どもが伝える事実」を信頼いただきたく存じます──。

 (なお、2019年10月13日付けの「ミッドスカイニュース」については、すでに連載⑪でも紹介しています)。

【■■】「風評被害を克服」するために

 大和ライフネクストの研究レポートは、「台風第19号では、タワーマンションに対する風評被害が広がっている」と指摘しています。

 インターネット時代の現在では、「風評を含む各種の情報」は主にネット経由で伝わります。

 しかし、「パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー」は、台風第19号に伴う浸水によって停電してしまいました。

 それゆえに、社会が求めていた「正確な情報」を、公式ウェブサイトを通じて発信することが不可能になったと思われます。すなわち、「風評被害を克服する機会」を失ってしまったのです。

 このような事態を乗り越えるためには、どうすればいいのでしょうか。1つの可能性として考えられるのが、マンション管理会社が主導して、「災害時にマンション管理組合が実行した方がいい風評対策」を、あらかじめマニュアルとしてまとめておく方法です。

 もし可能なら、「マンションみらい価値研究所」にその道筋をつけてもらえれば・・・、と思います。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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