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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2011年7月19日

第37回建築家の力量を感じさせるデザイナーズマンション

 今年は、いわば賃貸マンションの当たり年で、建築家の力量の高さを感じさせる作品が何作か誕生している。まず、全28戸に対して、実に22種類もの間取りを持つ「GONZOパークハウス」である。

 世田谷区中町1丁目にある敷地は、L字型で約1000平方メートル。そこに、鉄筋コンクリート造、地上3階・地下1階の住棟を4棟配置し、各棟をスロープでつないだ。住戸はメゾネット形式22戸、フラット形式6戸で、全28戸。一方、プランはメゾネット16種類、フラット6種類で、実に22種類になる。住戸の位置、広さ、方位を考慮した、丁寧な設計が印象的だ。

 例えば、専有面積47.81平方メートル、賃料16万8000円の202号室。玄関のドアを開けると、そこにはコンクリートの階段室があり、階段をトコトコ上がると、正面の窓越しに公園が見える仕掛けだ。住戸は主室(LD)、キッチンとその上部のロフト、浴室などの水回り、スキップフロアになった副室、その下部の収納スペースなど、立体的な構成になっている。

 設計は、吉富興産の建築企画室「44*TUNE」を率いる建築家、澤口直樹氏が担当した。

「GONZOパークハウス」(写真、吉富興産)

 次に、集合住宅の「究極型」を追求した「桜並木の集合住宅」である。所在地は東京都目黒区碑文谷3丁目の住宅街。広さ313平方㍍の角地に建つ、鉄筋コンクリート造、6層の建物で、全11戸からなる。

 なぜ「究極型」なのか。理由を知るためには、「居住ユニット」について説明する必要がある。3階を例に取る。中央にエレベーターがあり、周辺にコンクリートの壁で囲まれた四角い箱が6つある。この箱が「居住ユニット」だ。

 東側の301号室(約53平方メートル、賃料17万9000円)は、2つのユニットで構成され、室1は間仕切り付きの寝室、室2は居間・食堂・キッチンおよび浴室・洗面室・トイレとなる。また南側の302号室(約61平方メートル、賃料21万円)は、3つのユニットで構成。そして西北の203号室(約65平方メートル、賃料20万2000円)は、3階には1ユニットしかないが、2階の2ユニットと室内階段で結ばれて、計3ユニットとなる。

 このように、各住戸が、複数の居住ユニットを組み合わせてつくられる点が、集合住宅の「究極型」と称される由縁だ。

 設計は、集合住宅の名手として知られる、建築家の若松均氏が担当した。

「桜並木の集合住宅」(写真、若松均建築設計事務所)

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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