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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2013年12月17日

第124回「シェアハウスは寄宿舎」通知に困惑する業界と自治体(中編)

 国土交通省は9月6日、「シェアルームは建築基準法の寄宿舎に該当する」と通知。引き続いて10月25日、実態調査の中間取りまとめを公表した。違反の疑いのあるシェアハウス820件のうち、調査済み428件(違反360件、違反なし21件、閉鎖中など45件)、調査中392件である。調査済み物件の実に84パーセントに違反が発見された。

 日本シェアハウス・ゲストハウス連盟の調べによれば、全国で約500の事業者が約2500棟のシェアハウスを運営。そのうち約8割が戸建住宅を利用し、かつほとんどが「寄宿舎」基準を満たしていないため、違反と判断される可能性が強いという。

 この数字を見て、業界と地方自治体に困惑が広がっている。それは、戸建住宅を寄宿舎に変更する場合、1棟当たりの工事費は約250万円と推定されるからだ。工事中はいったん退去してもらう必要があるし、賃料も上げざるを得ない。

 それ以上に問題なのは、東京の住宅密集地では「窓先空地」の確保が難しいため、対応が困難になることだ。シェアハウスはかつかつで運営しているケースが多いので、全面建替えは実質的に不可能に近い。結局のところ、入居者は住む場を失い、業者は廃業を迫られることになる。

 すなわち、国交省の「寄宿舎」通知は、「わるいシェアハウス」を取り締まるのに有効である反面、「いいシェアハウス」に対して決定的なダメージを与える「両刃の剣」に化してしまいかねないのである。これでは社会正義を貫くのが困難になってしまいかねない。

 シェアハウスの現状をまとめておこう。

 【シェアハウスの定義】

 「シェアハウス」とは、複数人が1軒の賃貸住宅(住戸)に共同で生活する居住形態、またはその住宅自体をいう。居住者は各個室を独占的に使用し、居間、食堂、台所、浴室などは全員で共用する。日本では2000年頃から普及し始めた。

 【運営方法からみたタイプ分け】

 運営方法に焦点を合わせると、おおむね5つのタイプに分かれる。

 (1)「本来型シェアハウス」。居住者の共同、交流などを目的とする。東日本大震災の後には、コミュニティ機能に注目する人も増えている。

 (2)「シニア型シェアハウス」。シニア世代が寄り添って過ごすことを目的とする。

 (3)「支援型シェアハウス」。経済的あるいは身体的理由などで、一般の賃貸住宅に入居できない弱者の支援を目的とする。

 (4)「強引型シェアハウス」。利益だけを目的に、地域社会や周辺住民の意向に逆らって、強引につくられたもの。

 (5)「貧困ビジネス型シェアハウス」。弱者の味方を装いながら実際には彼らを食い物にする、いわゆる貧困ビジネスを目的としたもの。

 【居住性能からみたタイプ分け】

 シェアハウスの居住性能、すなわち防災機能(防火器具、避難通路)、共用空間(居間、食堂、台所、浴室)、個室(広さ、窓)のグレードに焦点を合わせると、3タイプに分かれる。

 (a)「合法シェアハウス」。建築基準法、建築関連条例、消防法などを遵守した、ホワイトなもの。

 (b)「脱法シェアハウス」。法律の隙間をねらったり、あるいは社会の良識を無視したりする、グレーなもの。

 (c)「違法シェアハウス」。建築基準法、建築関連条例、消防法などに違反した、ブラックなもの。

 【社会からみたタイプ分け】

 以上の8タイプは、社会的な評価を基準にすると、2タイプに集約される。

 (一)「いいシェアハウス」。本来型シェアハウス、シニア型シェアハウス、支援型シェアハウス、合法シェアハウス。

 (二)「わるいシェアハウス」。強引型シェアハウス、貧困ビジネス型シェアハウス、脱法シェアハウス、違法シェアハウス。

 いいシェアハウスを残す一方で、わるいシェアハウスを排除するためにはどうすればいいのか。現実的な対応策が求められている。

 (以下、後編)

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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