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「斜め45度」の視点

2012年7月17日

第73回世田谷区が旗竿敷地の長屋建築を規制

 東京都世田谷区が、「旗竿敷地(はたざお しきち)」に建つ長屋形式の集合住宅を規制するため、「建築物の建築に係る住環境の整備に関する条例(住環境条例)」を一部改正することになった。

 「旗竿敷地」とは、敷地(=旗)から道路まで続く細長い通路(=竿)、すなわち路地だけで道路に接する敷地をいう。

 東京都の建築安全条例では、旗竿敷地における共同住宅の建設を、原則として禁止している。しかし、外廊下などの共用部を持たず、住戸ごとに外部に直接通じる出入口を備える長屋形式の集合住宅は、建築安全条例が定める共同住宅に該当しないとして、建設が可能になっている。

 そのため、住宅地として人気が高い世田谷区では、建て込んだ住宅地の内側に、高さ10m近くの長屋形式の集合住宅の建設が相次いで、周辺住民との間でトラブルになるケースが多かった。

 世田谷区が公表した住環境条例の改正素案では、敷地面積が300平方メートル以上の旗竿敷地に、4戸以上の長屋を建設する場合には、以下の事項を義務づけることになった。

 まず、外壁から隣地境界線までの距離を、次のように定める。

 (1)指定建ぺい率が50%以上の敷地で、かつ建物の高さが8m以下である場合には、外壁から隣地境界線までの距離は0.75m以上とする。

 (2)指定建ぺい率が50%未満、または高さが8mを超える場合には、外壁から隣地境界線までの距離は1m以上とする。

 現行の住環境条例第12条(隣地からの壁面等の後退)では、延べ面積が1500平方メートル未満の場合には、外壁から隣地境界線までの距離は0.5m以上とされていた。

 また、建築物の「からぼり(空堀)」の周壁の外側から、隣地境界線までの距離を、次のように定める。

 (1)からぼりの深さが4.5m未満の場合

  「からぼりの深さ×0.8─2」m

 (2)からぼりの深さが4.5m以上の場合

   3m

 数値は現行基準と変わらないが、用途地域を限定しないこととした。

 ほかに、次の事項が義務づけられる。

 (1)居住水準の確保。住戸専用面積を25平方メートル以上とする。

 (2)管理に関する基準。資源およびゴミ収集日を含む週4日以上駐在または巡回させる方法により管理を行う。さらに、管理人の氏名、連絡先、夜間等の緊急連絡先等を記載した表示板を当該建築物の見やすい場所に表示する。

 (3)雨水対策。雨水の河川等への流出を抑制するための施設を整備する。敷地内において確保すべき雨水の浸透量および貯留量の合計量は、敷地面積が500平方メートル未満の場合には「敷地面積×0.03」、500平方メートル以上の場合には「敷地面積×0.06」とする。

 世田谷区は2012年6月15日に素案を公開。7月6日までパブリックコメントを受け付け、13年1月の施行を目指している。

 この改正素案が施行されれば、「オープンレジデンス」のブランド名でタウンハウスを展開しているオープンハウス、重層長屋「ザ・ロアハウス」を開発したコスモスイニシア、コーポラテイブ住宅のプロデュース会社などは、かなりの影響を受けると予想される。

 (注。図は、いずれも、世田谷区役所ウェブサイト「住環境条例改正の概要」から抽出した)

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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