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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2013年6月18日

第106回超高層ビルからの全館一斉避難に伴う問題点(南海トラフ巨大地震に伴う被害想定1)

 南海トラフ巨大地震に伴う被害想定のうち、今回は、超高層ビルが長周期地震動で揺れた場合の、家具や什器、非構造部材、建築設備、エレベーター、全館一斉避難、火災発生、事業継続などに関する要点をまとめる。

 注意しなければならないのは、エレベーターの脆弱性、全館一斉避難の問題点、火災発生の危険性が具体的に指摘されたことなどである。

 【家具や什器の転倒・落下・移動】

 高層・中層・低層を問わず、家具類の転倒・落下・移動によって人的被害が発生し、救護が遅れる可能性がある。図は、東日本大震災の調査結果。東京都防災ホームページ「南海トラフ巨大地震等による東京の被害想定」から抽出した。



 【非構造部材の被害】

 外壁パネルやカーテンウォールの破損、内壁パネルの剥落、ガラスサッシのクラック発生、天井パネルの落下、間仕切り壁の変形を生じる可能性がある。

 【建築設備の被害】

 受水タンクの破損、スプリンクラーヘッドや接続パイプの破損による漏水、照明器具の落下など、設備機器に被害を生じる可能性がある。

 【エレベーターの被害】

 エレベーターの地震時管制運転装置が、長周期地震動の初期微動に反応せずに通常運転を継続した場合、主ロープの絡まり、管制ケーブルの引っかかり、昇降機器との強い接触などによって、閉じ込め事故が発生する可能性もある。

 【全館一斉避難の発生】

 揺れや建物被害に対する不安から、ビル屋外へ避難しようとする人が多数発生する可能性がある。ただし、建築物の避難階段の設計は、火災が発生したとき、防災センターの指示による逐次避難を前提としている。したがって、各個人の勝手な判断による「全館一斉避難」が起こった場合、非常階段に多数の人が殺到し、転倒などによる二次被害が発生するケースがある。

 【火災発生の危険性】

 地震時にガスを止めるマイコンメータ感震機能が、長周期地震動に対して作動しない場合などには、超高層ビル内で火災が発生する可能性が考えられる。そして、火災からの避難が必要な状況下で、意図しない全館一斉避難が発生すると、避難を最優先すべき火災階と直上階の人が、身動きがとれなくなってしまう可能性もある。

 【事業継続などへの影響】

 オフィス内で停電、空調停止、エレベーター停止などが長期化すると、企業の事業継続が困難になる場合がある。このとき、地震計による「即時被災度判定システム」を活用すれば、避難の必要性や継続使用の可能性を、迅速に判断できる可能性が高い。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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