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「斜め45度」の視点

2020年8月11日

第357回 コロナ遭遇時のマンション管理新潮流 ──混乱編

 2020年2月から6月にかけて、『コロナ遭遇時における分譲マンション管理』を巡って、様々な組織で試行錯誤が続けられてきました。

 様々な組織とは、「①国土交通省」「②マンション管理業協会」「③マンション管理各社」「④マンションデベロッパー各社」「⑤全国マンション管理組合連合会」「⑥各マンションの管理組合」などを意味しています。

 今回は『コロナ遭遇時のマンション管理新潮流 ── 混乱編』と題して、主に「①国土交通省」「②マンション管理業協会」「⑤全国マンション管理組合連合会」「⑥各マンションの管理組合」などが行った、「早期の試行錯誤」について、まとめることにしましょう。

【■■】「国土交通省新型コロナウイルス感染症対策本部」からの通知


 まず2020年2月14日、国土交通省土地・建設産業局不動産業課長が、一般社団法人マンション管理業協会理事長に宛てて、『新型コロナウイルス感染症の感染拡大の防止について』と題する書類を送付しました。

 ──現在、国土交通省では、新型コロナウイルス感染症の更なる拡大を防止するため、「国土交通省新型コロナウイルス感染症対策本部」を設置するなど、全省を挙げて対策を講じているところです。

 第5回・国土交通省新型コロナウイルス感染症対策本部において、以下の通り大臣指示がありました。

 「公共交通機関や集客施設など、不特定多数の者が集まる施設における感染症対策の観点から、新幹線駅・主要な在来線駅の構内や空港ターミナル内における消毒液の設置に加え、中国本土から日本に運航して夜間駐機を行う本邦航空会社全機の機内消毒など、利用者の感染拡大防止に万全を期してください」。

 つきましては、感染症対策の観点から、貴団体および傘下企業においては、不特定の人が訪れる可能性がある施設の出入口での消毒液の設置や、不特定の者が触れる箇所の定期的な消毒など、職員および来訪者への感染拡大防止に万全を期すとともに、営業所、事業所、寮等においてもアルコール消毒液の設置や定期的な消毒等、可能な範囲で感染予防の対応を講じるようお願いします──。

 URL<http://www.kanrikyo.or.jp/news/data/2020coronavirus/200214.pdf>

【■■】『マンション管理会社の感染症等流行時対応ガイドライン』


 それを受けて2月27日には、マンション管理業協会から各マンションの管理会社に宛てて、『マンション管理会社の感染症等流行時対応ガイドライン』が送付されました。

 ──マンションは共同住宅という性質上、特定多数の居住者等が参集する場であり、また合意形成を図るための集会等が必要となることから、感染が拡大する機会の多い場所であることは言うまでもありません。

 管理組合においても感染が拡大することを危惧し、集会等の延期や開催中止を検討し、そのことについて管理会社に対して相談が寄せられることも予想されます。

 その際には収集した情報の提供を行い、居住者の安全を確保するために、場合によっては集会等を延期、中止することも止むを得ないことをアドバイスする必要があります。

 マンションでの感染拡大防止においては、情報提供をはじめとしてマンション管理会社の役割は非常に大きなものがありますが、いかなる場合でも居住者の安全を確保することを最優先として業務を行うことが望まれます──。

 URL<http://www.kanrikyo.or.jp/report/pdf/gyoumu/virus_20200227.pdf>

【■■】全国マンション管理組合連合会──2859管理組合の対応


 次は「全国マンション管理組合連合会」の取り組みです。同連合会は、「全国各地の管理組合団体」を会員とする組織で、北海道から沖縄まで「20団体」(2859管理組合)で構成されています。

 そのウェブサイトの『過去のトピックス欄』には、「新型コロナ問題に直面した各マンションが、具体的に、どのように対応してきたのか」を説明した、多数の例が掲載されています。

URL<http://www.zenkanren.org/index.html>

◆『マンション管理組合総会──延期も視野に入れ準備を、新型コロナ感染広がる中』
 (2020年3月12日)


 新型コロナウイルスの感染が拡大しているが、4月〜6月に集中するマンション管理組合の通常総会開催をめぐって、管理組合に戸惑いが広がっている。

 「予定通りに開催する」だけではなく、「コロナウイルス感染の広がりを警戒しながら、一定の時期まで延期」、あるいは「議決権行使書や委任状を活用して、体調不良の方の出席を控えてもらい総会を開く」、などの選択肢が考えられる。

 マンションにとって年に一度の通常総会は、「予決算、理事の選任、大規模修繕などの重要な議案を決議する機会」だけに、万全な感染防止策を講じつつ、延期してでも総会を開きたい。

◆『新型コロナウイルスに、マンションとして、どう対応するか』
 (2020年4月16日)


 新型コロナウイルスの感染が全国的に広がり、4月7日には、政府から新型コロナ特措法に基づく緊急事態宣言が、「東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県」に出されました。

 東京都心では住民の7~8割がマンションに居住するなど、対象の都府県は「マンションゾーン」ともいえる地域です。そのマンションでは、通常総会のピークを迎える5月を控え、管理組合は総会準備に取り組んでいます。しかし、どの団地・マンションも狭い集会所での総会となりがちで、密閉・密集・密接の三密の危険性をはらみます。

 目下、マンションでは集団感染の発生の報告はされていませんが、未曾有の大災害ともいえる新型コロナウイルス感染の広がりにマンションがどう対応するか、多角的に報告していきます。

 ①北海道旭川市のマンションでは、感染者が出たことから、保健所に共用部の消毒を依頼したところ、「共用部とはいえ、私有財産の消毒はできない」、と断られた例を紹介しています。

 ②また、福岡マンション管理組合連合会が会員の管理組合に配布したチラシでは、「マンションの清掃は住民も自ら手掛けよう」と、と呼びかけています。

 新型コロナウイルス感染が広がる中で、管理会社の日常の清掃作業が滞るケースが出てきました。管理員の高齢化が進む中、コロナ感染の恐れもあり、清掃作業が滞りがちですが、「ならば住民が自ら清掃を担おう」、と呼びかけたのです。

 コロナ感染がどこで沈静化するか見通せませんが、福管連の呼びかけは、「お互いさまの心意気でコロナ感染の広がりの難局を乗り切ろう」という覚悟を示すものです。

◆『理事以外の出席はひとり──新型コロナ感染広がる中でのマンション管理組合通常総会』
 (2020年4月19日)


 ③新型コロナウイルスの感染が広がっている中、神奈川県厚木市の鳶尾第2住宅管理組合(250戸)の通常総会が、4月19日に開かれました。

 事前に「議案書」と、出欠と議案に対する意思表示が確認できる「議決権行使書」を配布。議案に対する質問は事前に書面で求め、総会では論議なしとしたことで、例年3時間かかる総会は、40分で閉会しました。

◆筆者(細野透)の感想──全国マンション管理組合連合会には、全国各地にある「2859ものマンション管理組合」が参加しているだけに、新型コロナに遭遇して悩んでいる各マンションの「生の声」を聞くことができて、とても貴重です。

【■■】マンション管理各社およびマンションデベロッパー各社の心配

 以上のように、4月〜6月に集中するマンション管理組合の通常総会開催をめぐって、各管理組合は「ある種の混乱」と闘いながらも、何とか切り抜けることができたようです。

 マンション管理会社およびマンションデベロッパー各社は、こういった各管理組合の動きを「心配」しながら見守っていたと思われます。そして、2020年の6月〜7月にかけて、コロナ問題に対応できる「新たなツール」の開発に注力するようになりました。

 その内容は次回に掲載する、コロナ蔓延時のマンション管理新潮流──新ツール編、で詳しく説明したいと思います。 

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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