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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年5月22日

第284回ニュースが続く街、「タワーマンションの武蔵小杉」最近事情

 神奈川県川崎市中原区にある武蔵小杉駅の周辺は、首都圏を代表するタワーマンションの街として知られる。

 最初のタワーマンションが完成したのは2009年。そしてリクルートの「2010年版──みんなが選んだ住みたい街ランキング関東編」に、第16位で初登場した。その後、少しずつ出世して、「2017年版」では吉祥寺、恵比寿、横浜、目黒、品川に続く第6位に入っている。

 2010年版──武蔵小杉は第16位

 2017年版──武蔵小杉は第6位

 同駅の周辺で何かあると、すぐにニュースとして取り上げられるのだが、これは一種の「有名税」に相当する。

 2015年から2016年にかけては、「落下物騒動」が話題になったのは記憶に新しい。タワーマンションの高層階から食べかけのパン、ペットボトル、金網、目覚まし時計、ミカンなどが落ちてくる事件が頻発したのである。

 最終的には、合計30個もの生タマゴを故意に落としたとして、22歳の慶応大学生が逮捕されてひとまず落ち着いた。

 続いて2016年頃からは、「武蔵小杉駅の混雑問題」が大きなニュースとして浮上した。

 同駅の構造はかなり複雑なので、図を使って説明する(下図は川崎市「コスギ・コミュニティビジョン2040」から引用、赤文字は筆者が加筆)


 武蔵小杉駅には東急東横線・目黒線、JR南武線、JR横須賀線・成田エクスプレス・湘南新宿ラインなどの路線が乗り入れている。

 このうち東急東横線・目黒線は赤字の「東横線駅」、JR南武線は赤字の「南武線駅」、JR横須賀線・成田エクスプレス・湘南新宿ラインは赤字の「横須賀線駅」を利用する。

 図では「南武線駅」「東横線駅」「横須賀線駅」は独立しているように見えるが、実際には3駅は地下・地上・空中の通路でつながっている。そのため各路線を乗り継ごうとすると、複雑な通路を歩くことになる。

 さて「武蔵小杉駅の混雑問題」は、大きく次の3点で構成されている。

【その1──「改札待ち」の長い行列】

 2009年から2017年までの間に、15棟・約7600戸のタワーマンションが完成した。このため川崎市中原区の人口は、少なくても約1万人は増加したと思われる。

 その結果、「武蔵小杉駅」の乗降人員は、2009年の約32万人から2017年の約47万人へと急激に増えた。

 なお、「約7600戸が完成」「約1万人は増加」「2009年の約32万人から、2017年の約47万人へ」など曖昧な表現になっているのは、川崎市および中原区のウェブサイトには「きちんとしたデータ」が掲載されていないためである。

 いずれにしても、「武蔵小杉駅」の利用者が増えたため、改札口が混み合って、通勤時間帯には「改札待ち」の長い行列ができるようになった。

【その2──駅構内が複雑で、「目指すホームにたどり着けない」】

 武蔵小杉駅の構内に入ったとしても、通路やホームが狭いため、乗車客・降車客・乗り換え客が入り乱れて、「目指すホームになかなかたどり着けない」。

 それに加えて、「南武線駅」「東横線駅」「横須賀線駅」が複雑につながっているため、不慣れな人は「途中で迷う」ことが多い。

【その3──電車に乗り込むと「車内は混雑」している】

 国土交通省「東京圏におけるJR東日本の主要区間混雑率(2016年)」には、朝の通勤時間帯に関するデータが掲載されている。

 ワースト1位 総武線(緩行、錦糸町→両国)、混雑率198%

 ワースト2位 横須賀線(武蔵小杉→西大井)、混雑率191%

 ワースト3位 中央線(快速、中野→新宿)、混雑率187%

 このうちワースト2位になった、横須賀線(武蔵小杉→西大井)の混雑率191%というのは、新聞を読むのは無理だが、週刊誌なら何とか読める状態である(下図は国交省「三大都市圏における主要区間の平均混雑率の推移」から引用)。


 さて、武蔵小杉駅の混雑問題を解決するため、JR東日本横浜支社は2017年12月に、「武蔵小杉駅の混雑緩和対策工事」に着手した(下の図は同資料から引用)。

 (1)「横須賀線駅」の新南改札付近を改造

 この新南改札の前には、朝の通勤時間には「改札待ち」の長い行列が発生する。そのため、新南改札のすぐ近くに、朝のピーク時だけ利用可能な「入場専用の臨時改札」と「上がり専用のエスカレーター」を新設し、4月下旬から使えるようにした。


 (2)南武線下りホームを拡幅

 南武線のホームは上がり・下がりともに狭いため、人の流れが妨げられやすい。そのため、下がりホームの一部を1mくらい拡幅して、通行スペースを少し広げる。


 この対策工事は2018年3月に終了した。

 これで一段落かと思っていたら、朝日新聞デジタルが「川崎市がJR武蔵小杉駅の混雑対策を担当する課長級ポストを2018年4月に新設する」と報じた。

 新ポストの職員など7人態勢で、住民から転落防止策として要望が上がっているホームドアの設置や、混雑緩和のため列車の編成を長くすることなどについてJRとの調整に取り組むほか、時差出勤で混雑を緩和するオフピーク通勤の導入も進める──。

 ニュースが続く街、「タワーマンションの武蔵小杉」には、話題が尽きることはないようだ。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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