リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年12月18日

第305回 行列ができる現場見学会──青木茂建築工房「リファイニング建築」の人気

 青木茂建築工房から、今年の2月と7月に、それぞれ次のような趣旨のメールが届いた──。

「△△ビルリファイニング工事・完成現場見学会」、申し込み締切のご案内

 皆様におかれましてはますますご健勝のこととお喜び申し上げます。このたびは「完成現場見学会」につきまして、多くの方々にお問い合わせ、申し込みをいただき、誠にありがとうございました。

 実は昨日時点で、すでに見学会会場の受け入れ能力一杯のお申し込みをいただき、新たな申し込みをお受けできない状態になりました。

 そのため誠に恐縮ではございますが、受け付け停止とさせていただきます。 

 青木茂および関係スタッフ一同、またのご参加を心よりお待ち致しております。何卒、よろしくお願い申し上げます──。

 青木茂建築工房は毎年、3〜5回のペースで、「リファイニング工事・完成現場見学会」を開催してきた。しかし、「満員御礼につき、受け付け停止」というケースは、初めてのことだったのではないか。

■■■「リファイニング建築」5つの特徴

 青木茂建築工房は、2013年から2018年3月末まで首都大学東京特任教授を務めた、建築家の青木茂氏が主宰する建築設計事務所である。

 青木氏は「リファイニング建築」の開発者として知られる。リファインとは「再生」という意味で、リファイニング建築には大きく5つの特徴がある。

 (1)内外観ともに新築と同等以上の仕上がり
 (2)新築の60〜70%の予算
 (3)用途変更が可能
 (4)耐震補強により、現行法規および耐震改修促進法に適合
 (5)廃材をほとんど出さず、環境にやさしい(産業廃棄物43%減、CO2発生量83%減)

 構造強度を必要十分にアップできるだけではなく、外装・内装・設備を一新し、検査済証を取得するため、新築建物と同等の出来栄えになるのである。

 青木氏は初め大分市および福岡市に設計事務所を構えていた。そして、1990年代の後半に九州でリファイニング建築の実例を立て続けに発表して、注目を浴びる存在になった。

 その後、徐々に活動エリアを広げて、2005年には東京にも設計事務所を構え、首都圏および全国各地で精力的にリファイニング建築を創り続けてきた。

 青木茂建築工房がいつから現場見学会を開催するようになったのか定かではないが、私自身は2010年頃から合わせて4回の見学会に参加した。

 当時から、大勢の参加希望者があるため、いつも受付に長い行列ができていた。しかも、参加者のほとんどが現場を隅々まで熱心に見回るだけではなく、質問も活発なために見学会は常に長引いた。

 また参加希望者の数が多すぎる場合には、見学会を「10時からの部、13時からの部、15時からの部」などと複数化することもあった。

 しかし冒頭で紹介した「△△ビルリファイニング工事」の場合には、見学会会場の広さの都合で、申込期間中であるにもかかわらず締め切らざるを得ない、という異例のケースになってしまった。

■■■「リファイニング建築」「リノベーション」「リフォーム」の違い

 さて、リファイニング建築を理解するために、ミサワホームが2016年9月15日に公表した「インフォメーションリリース」の内容を紹介しておこう。


(図はリリースから引用)

 同リリースによれば、建物を改修する技術は大きく、「リファイニング建築」「リノベーション」「リフォーム」の3タイプに分かれる。

 1番目の「リファイニング建築」は、確認申請の手続きを行い、かつ耐震補強もするため改修費は高いが、次回改修までの時間は長いし、資産価値の維持レベルも高い。

 2番目は、外装・内装・設備・構造をかなり大きく変える、「リノベーション」である。これは改修費、次回改修までの時間、資産価値の維持レベルともに、中程度になる。

 3番目は、外装・内装・設備・構造を余り変えない、「リフォーム」タイプである。これは改修費は安いが、次回改修までの時間は短いし、また資産価値の維持レベルも低い。

■■■三井不動産が青木茂建築工房と業務提携

 三井不動産は「リファイニング建築」のこのような特徴に注目して、2016年8月に青木茂建築工房と業務提携した。

 プレスリリースでは次のように説明している。

 「青木茂建築工房のリファイニング建築の手法を活用し、新築工事の70%程度のコストで、居住者の眺望や外観を損なう耐震ブレースを使用しない独自の手法で耐震化し、外装・内装・設備等も新築同等の建物とし、さらには確認申請の再提出、検査済み証の取得と、法的にも新築同等とした建物への再生を行います」

 その実例としては、共同住宅(東京都練馬区、総戸数28戸)を、賃貸マンション「アンソレイユ氷川台」にリファインしたケースがある。

 またミサワホームも2016年9月に青木茂建築工房と業務提携。北海道が東京都渋谷区に所有する旧初台公宅(3DK、18戸)を、賃貸マンション(1LDK中心、21戸)にリファインする工事に着手。2017年10月に完成させた。

■■■賃貸マンション「高根ハイツ」にグッドデザイン特別賞

 以下に紹介するのは、青木氏にとって45件目のリファイニング建築になった、賃貸マンション「高根ハイツ」である(写真は青木茂建築工房の提供)。

(リファイニング工事の前。建物は東京都中野区東中野2丁目に、1963年に完成。鉄筋コンクリート造、4階建て、外廊下形式)

(リファイニング工事の後。工事は2010年1月に終了)

 工事前と工事後の写真を比較すると、建物の構造的な骨格は余り変わらないが、デザイン的な表情は一変していることが分かる。

 この「高根ハイツ」は、2010年グッドデザイン特別賞(サステナブルデザイン賞)、およびマンションクリエイティブリフォーム賞審査員特別賞を受賞している。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


BackNumber

コラム一覧

細野透 「斜め45度」の視点

2024年03月05日


山田純男 東京競売ウォッチ

2024年04月23日



Copyright (c) 2009 MERCURY Inc.All rights reserved.