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2020年8月25日

第358回 コロナ蔓延時のマンション管理新潮流──新ツール編

 前回は、『コロナ遭遇時のマンション管理新潮流──混乱編』というタイトルで、2020年2月から6月にかけて、主として「マンション管理会社」や「マンション管理組合」で試みられた、様々なコロナ対策を紹介しました。

 マンション管理組合の通常総会は、毎年4月〜6月に開催されるのが一般的です。その時期に初めてコロナに遭遇したため、多くの管理組合が混乱したのも、ある意味では止むを得なかったと思われます。

 そういう動きを見て具体的な対策に乗り出したのが、「マンション管理各社」や「マンションデベロッパー各社」です。2020年6月から7月にかけて、コロナを乗りきるための「様々なツール」を、競うようにして開発・発表しています。

 今回は、『コロナ蔓延時のマンション管理新潮流──新ツール編』というタイトルで、各社の取り組みをまとめてみることにしました。

【■■】大和ライフネクストの「Web理事会サービス」

 コロナ対策のうち、分譲マンションの管理組合が理事会を開催しようと考えたとき役に立つのが、大和ハウスグループの大和ライフネクストが、2017年12月に開発した「Web理事会サービス」だったと思われます。

 これは、理事会の代表者である理事長が、「議案内容の確認」と「開催承認」をWeb上で行うシステムです。

 ①理事長が「Web理事会」の開催を承認した後、各理事に開催通知が送信される。

 ②各理事は開催期間(1週間程度)の都合のよい時間に、スマートフォンなどから「Web理事会」に参加する。

 ③各理事はシステムにアップされた会議資料の確認、電子掲示板での質疑応答、各議案への賛成・反対・保留の意思表示を行う。

 ④採決の結果は自動集計され、質疑応答のデータとともに議事録に反映される。そのため理事会の効率的な運営が可能となる。


「Web理事会サービス提供開始」リリースのURL
<https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000903.000002296.html>

【■■】「Web理事会サービス」の実際の利用状況

 大和ライフネクストの上記「Web理事会サービス」は、コロナ問題が発生したとき、実際問題としてどのように役に立ったのでしょうか。

 同社は2020年6月19日に、「ウィズコロナ時代に求められるマンション管理のニューノーマルを『マンションみらい価値研究所』が提言、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により高まるWeb理事会の需要」──と題する、新たなプレスリリースを発表しました。

 ──本調査では、当社が管理を受託する全国3893組合を対象に、2019年5月〜2020年5月までの期間、「Web理事会サービス」を実施した件数について分析。

 緊急事態宣言の発出直後で、人との接触率8割減を目指して外出自粛が求められていた、「2020年4月15日〜5月15日の期間」では、当サービスを平均の倍以上ご利用いただいたことが明らかになりました──。


 コロナ対策として、「会社に出勤しないで自宅でテレワーク」というスタイルが一般的になりました。マンション管理組合の理事会も、それと似た感じだったということですね。

「Web理事会の需要」リリースのURL
 <https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000059962.html>

【■■】大京アステージ・穴吹コミュニティの「次世代型マンション管理サービス」

 大京アステージと穴吹コミュニティの2社は、2020年6月11日に、極めて長いタイトルを持つプレスリリースを公表しました。

 ◇デジタルトランスフォーメーション(DX)による「次世代型マンション管理サービス」開発に着手
 ◇管理業務をDXで変革する「MiDD Project(ミッド・プロジェクト)」始動
 ◇第一弾として「Web総会」サービスを2020年7月から試験導入

 その趣旨は、マンションをとりまく社会課題になっている「3つの老い(建物の老朽化、居住者の高齢化、労働力の老い)」などに対応するため、DXによる次世代型マンション管理サービスの開発に着手しました──ということです。

 なおDXとは、「デジタル技術」を活用して「ビジネスモデル」を改革し、「競争上の優位性を確立する」というような意味になります。


 「Web総会」サービスを2020年7月から試験導入する目的としては、「管理組合では、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、総会実施を延期するなどの動きがあり、衛生面の配慮などを実施した新たなマンション内コミュニティの在り方を実現していく必要があるため」と説明しています。

 そして2020年秋以降には、以下の5項目に取り組む予定です。

 ① デジタル技術により居住者の健康を支援するヘルスケアサービスを提供
 ② 電子契約システムの導入
 ③ 居住者と管理会社をつなぐアプリの開発
 ④ AI活用による社内データベースの整備
 ⑤ AI活用による社内業務の自動化・効率化を推進

 リリースのURL
 <https://www.daikyo.co.jp/news/dev/files/20200611.pdf>

【■■】大京アステージ・穴吹コミュニティの第二弾

 それから間もない7月1日、大京アステージと穴吹コミュニティの2社は、再び長いタイトルのプレスリリースを公表しました。

 管理業務をデジタルトランスフォーメーションで変革する「MiDD Project」第二弾。「マンション管理契約電子化サービス」を8月1日開始、非対面・ペーパレス化による手間の低減とコスト削減を実現──。

 2020年6月1日に第一弾、7月1日に第二弾と2連発スタイルのリリースになったのは、「鉄は熱いうちに打て」という、ことわざを意識した行動だったのかもしれません。

 リリースのURL  <https://www.daikyo.co.jp/news/dev/files/20200701.pdf>

【■■】三菱地所コミュニティのマンション自主管理アプリ「クラセル」

 三菱地所、三菱地所コミュニティ、イノベリオスの3社は連名で、7月1日に「マンション自主管理アプリ──KURASEL(クラセル)」に関するプレスリリースを公表しました。

 そのタイトルは、「三菱地所グループが開発・提案する、マンション自主管理アプリ『KURASEL(クラセル)』(※特許出願中)、7月1日(水)申し込み受付を開始」。

 ──三菱地所グループのマンションの総合管理会社、三菱地所コミュニティは、管理コストの削減や、修繕積立金不足、マンションの役員の担い手不足といった社会課題の解決を目指し、管理組合がマンション管理会社に業務を委託せずともマンション管理を簡単にできるアプリ「KURASEL(クラセル)」を開発しました。本日7月1日(水)より申し込み受付を開始します。

 「KURASEL(クラセル)」は、三菱地所コミュニティが50年にわたり培ったマンション管理のノウハウを集約して、マンション管理組合向けに開発したアプリです。

 マンション管理に関する知識や経験が少ない人や、忙しくて時間に余裕のない人でも、スマートフォンで簡単に自主管理ができます。

 具体的には、今までマンション管理会社が担ってきた、マンション管理組合における「煩雑な所有者・居住者情報や契約・発注管理といった基本情報管理」から、「理事会資料の保管・閲覧、収支状況・支払管理」に至るまでの全てを、スマートフォンおよびWeb上のアプリで一元管理が可能になります。


 アプリの利用料金は月々3万5000円から(税別、1マンションにつき)と低廉なため、大幅なコスト削減が期待できるマンション管理組合もあります。

 なお本アプリの提供・運営は、三菱地所コミュニティが新設分割の手法により設立した、新会社「イノベリオス」にて行います。

 従来から、マンション管理組合の「自らマンション管理を行いたい」「管理コストを下げたい」という ニーズはあったものの、マンションの自主管理をサポートするような商品・サービスはこれまでに提供されていませんでした。新しい商品・サービスであると認識しており、ただいま特許を出願中です。

 今後、新会社は2024年度末までに全国で3000組合での導入を目標にするとともに、従来のマンション管理のビジネスモデル転換を目指して参ります──。

 マンション自主管理アプリ「クラセル」に関するリリースのURL
<https://www.mec.co.jp/j/news/archives/mec200701_innovelios.pdf>

【■■】三菱地所コミュニティ「クラセル」に対するメディアの反応

 マンション管理会社の仕事は通常、次の4業務に分かれています。

 ①事務管理業務
 ②管理員業務(受付、点検、立会、報告・連絡)
 ③清掃業務
 ④建物・設備管理業務などに分かれています。

 「クラセル」の役割は、このうち「①事務管理業務」をサポートすることです。そして、アプリ「クラセル」の利用料金は、毎月3万5000円から(税別・1マンションにつき) となっています。

 この「クラセル」に関しては、「日本経済新聞電子版」が7月1日16時43分に速報。また翌7月2日にはNHKがテレビのニュース番組で報道しました。

 日経やNHKなど重要なメディアが注目したのは、新型コロナの蔓延によって、分譲マンションの管理組合が苦労した事実を把握していたためなのかもしれません。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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