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「斜め45度」の視点

2018年2月20日

第274回野村と三菱は「マメ」、住友と三井は「不精?」─ニュースリリースの掲載事情

 マンションデベロッパー各社が、自社で手がける分譲マンションについて社会に広く知ってもらおうとする場合、大きく3種類の手段がある。

 1番目が新聞、不動産情報誌、テレビ、インターネットなど各メディアの「広告欄」の利用である。

 2番目が新聞、不動産情報誌、テレビ、インターネットなど各メディアに掲載される「編集記事」である。この「編集記事」は、デベロッパーの広報部門が各メディアの編集部、およびフリーのジャーナリスト、評論家などに配信する「プレスリリース」を手がかりにして執筆されるケースが多い。

 3番目が自社サイトなどで発表する「ニュースリリース」で、情報を消費者に直接届けることが可能になる。

 このとき、不動産の分野では、「プレスリリース」と「ニュースリリース」の内容はほぼ同一であるケースが多いので、以後は「ニュースリリース」という言葉に統一する。

 それでは、デベロッパー各社は毎年、ニュースリリースを自社サイトに何件くらい掲載しているのだろう。いわゆる「メジャーセブン」、すなわち住友不動産、三井不動産(三井不動産レジデンシャル)、野村不動産、三菱地所(三菱地所レジデンス)、東急不動産、大京、東京建物の7社について、2017年の掲載件数を調べてみた。

 まず、各社の「2016年分譲マンション販売戸数」を表にまとめた(不動産経済研究所調べ、東京建物は筆者の推定)。

 次に、各社のウェブサイトに掲載された「2017年ニュースリリース」のうち、「分譲マンション関係の掲載件数」を表にまとめた。

 【野村不動産はマメ(積極的)】

 全7社のうち、野村不動産および三菱地所(三菱地所レジデンス)の2社だけが、掲載件数が30本を超えているので、いわば「マメ(積極的)」である。

 このうち野村不動産の第1の特徴は、いわゆる「目玉物件」の動向を丁寧に知らせてくれることにある。例えばこんな具合である。

 2017年11月20日──「名古屋・錦二丁目7番第一種市街地再開発事業」市街地再開発組合設立認可のお知らせ(野村不動産、旭化成不動産レジデンス、エヌ・ティ・ティ都市開発、長谷工コーポレーション)。

 2017年11月14日──「プラウド浦和東仲町ガーデン」第一期即日完売。地域とのつながりを重視した街づくりを展開。プラウド浦和シリーズ40棟、3700戸超を供給済。

 2017年9月11日──全邸100平方メートル超、平均価格約4億円、「プラウド六本木」竣工。

 野村不動産の第2の特徴は、企画や販売に関する新たな取り組みを紹介してくれることにある。

 2017年8月22日──「リノベーションをもっと自由に、もっと簡単に」。グループ3社によるリノベーション事業「bespo(ビスポ)」開始。

 2017年7月18日──名古屋都心6物件を販売する、総合型マンションギャラリー「プラウドラウンジ名古屋」オープン。

 2017年5月22日──日本初!マイクロソフト「ホロレンズ」をマンション販売に採用。

 野村不動産の広報室は、こういったリリースを筆者にもメールで送付してくれるので、取材の計画を立てやすい。

 【三菱地所(三菱地所レジデンス)もマメ(積極的)】

 三菱地所(三菱地所レジデンス)は、目玉物件の動向、企画や販売に関する新たな取り組みに加えて、防災活動のサポートにも注力している。

 2017年11月20日──木密地域を解消し、防災力向上を目指す。「千住一丁目地区第一種市街地再開発事業」着工。北千住駅徒歩3分、約5000平方メートル規模の再開発事業。

 2017年9月11日──「マンション建替法に基づく容積率の緩和特例制度」初の適用事業。「メゾン三田」マンション建替組合設立認可を取得。

 

 2017年10月4日──マンション用全館空調システム「マンションエアロテック」を全戸標準装備。「ザ・パークハウス 二子玉川碧の杜」モデルルームグランドオープン。「低炭素建築物」初認定の「ザ・パークハウス」プロジェクト。

 2017年8月28日──自分や家族を想定して防災を考え、行動するためのきっかけづくり。親子で考える防災ツール「そなえるドリル」を開発。

 三菱地所(三菱地所レジデンス)の広報室もまた、こういったリリースを筆者にメールで送付してくれる。特筆したいのは、添付されるデータ量の豊富さである。

 例えば、2018年1月9日に送られてきた、全500戸の大規模プロジェクト、「ザ・パークハウス オイコス 赤羽志茂」の場合には、A4サイズの説明資料(PDF)に加えて、17点もの画像(jpg、png、tif)が添付され、そのデータ量は実に266MBに達した。

 これほど豊富なデータをメールで送付してくれるのは、マンションデベロッパーとしては同社だけである。

 【大京、東急不動産、東京建物は平均的】

 「メジャーセブン」のうち、大京、東急不動産、東京建物の3社は、ニュースリリースの掲載件数が20本台なので、「平均的」といっていい。

 【住友不動産は不精(消極的)?】

 住友不動産は販売戸数がメジャーセブンでダントツの第1位なのに、ニュースリリースの掲載件数はわずか12本と下から2番目だ。なぜ、「不精(消極的)」なのだろう?

 住友不動産のニュースリリースを眺めてみると、同業他社であれば必ず取り上げている目玉物件を、埋もれさせているケースが多いような気がする。

 例えば、2017年7月から第1期販売を開始した「シティタワーズ東京ベイ」は、国家戦略特区認定事業であり、かつ都内最大規模の全1539戸というビッグプロジェクトであるにもかかわらず、どういうワケかニュースリリースに掲載されていない。

 この物件は、第1期販売を始めた当時は、「(仮称)東京ベイ トリプルタワープロジェクト」という名前だったので、念のためにその名前でも検索したが、やはりニュースリリースは見当たらなかった。

 なぜだろう。アレコレ考えていると、そもそも住友不動産は会社全体のニュースリリースが、2017年はわずか54本と過ぎないことが分かった。下の表に示すように、メジャーセブンではなんと最下位に甘んじているのである。

 すなわち、会社全体のニュースリリースが54本と少なかった影響で、分譲マンションに関係するニュースリリースもまたわずか12本になったのかもしれない。

 12本÷54本=約22%

 計算してみると、分譲マンション関係のニュースリリースは、全体の約22%を占めている。

 ちなみに、マメ(積極的)とされた三菱地所の場合には、会社全体のニュースリリースが109本、分譲マンションに関係するニュースリリースは31本だった。

 31本÷109本=約28%

 住友不動産の約22%、三菱地所の約28%という数字を見ると、「住友不動産は分譲マンションについては不精(消極的)ではなかったのかもしれない」という気もしてくる。

 【三井不動産(三井不動産レジデンシャル)も不精(消極的)?】

 三井不動産(三井不動産レジデンシャル)は販売戸数がメジャーセブンで第2位なのに、分譲マンションに関係するニュースリリースの掲載件数は10本と最下位だった。この数字を見ると、「同社もまた不精(消極的)なのか」、と思えてくる。

 ちなみに、三井不動産全体のニュースリリースは119本だった。再び計算してみよう。

 

 10本÷119本=約8%

 分譲マンション関係のニュースリリースは、全体のわずか約8%に過ぎない。住友不動産の約22%、三菱地所(三菱地所レジデンス)の約28%という数字と比較すると、圧倒的に少ない。

 詳しく調べてみると、三井不動産のニュースリリースは、「住まい、オフィスビル、街づくり(複合施設)、ベンチャー共創、ホテル、スポーツ、グローバル、商業施設、CSR、イベント、リゾート、ロジスティクス、経営情報、その他」という14項目に分かれていることが分かった。

 すなわち、住まい(分譲マンション)という分野では目玉物件であっても、14項目の間でバランスを取るために、ニュースリリースに掲載しなかったのかもしれない。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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