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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2009年02月23日

第3回 富士ハウス・川尻増夫社長とヒューザー・小嶋進社長

 住宅メーカー「富士ハウス」(静岡県浜松市)の自己破産問題が、複雑な展開を見せている。

 1月29日午後6時。富士ハウスはグループ会社2社とともに、東京地裁から破産手続き開始決定を受けた。 負債は 638億円。同社は事業継続を断念し、3月2日付けで、従業員2000人を解雇する予定である。

 破産管財人に選定されたのは弁護士の松田耕治氏。管財人は、「財産の番人」として、倒産後の 社有財産にまつわる一切の権利を掌握し、客観的な立場で権利を行使する。

 同社の倒産で深刻だったのは、1532名もの建主が巻き込まれたこと。 内訳は、着工中の物件が728件、工事代金の一部を支払ったが未着工の物件が804件である。

 その中でも、着工前に工事代金のなんと70%もの支払いを要求された建主が、少なくなかったことが注目される。 さらに、倒産直前の28日、当日の29日、翌日の30日にも、工事代金を支払わされた建主がいたと判明した。 要するに、「通常の倒産」にプラスして、「詐欺的な行為」が混じっていたのである。

 2月4日。破産管財人は、建主が支払った工事代金のうち、「300万円以下の金額に対しては10%程度しか返還できない」、 「300万円を超える部分については20%程度の返還を目標にしている」と表明した。ざっと試算すると、 250万円の支払額(債権)では25万円、1000万円の支払額(債権)では170万円しか返却されないことになる。

 2月12日。静岡県弁護士会は「富士ハウス被害対策県弁護団」を結成(団長・青島伸雄弁護士)。 消費者の救済活動に乗り出した。青島弁護士は、同社が破産申告直前に消費者に多額の現金を 振り込ませている事例を挙げ、「経営陣が破産を検討していながら、従業員に集金させたとすれば 問題だ」として、同社役員の民事責任を追及する考えを示した。

 2月16日。管財人は、未完成物件の施工を引き継ぐ新会社のスポンサーが、IT関連企業の スピードパートナーズ(東京都中央区、白石伸生社長)に決まったと発表した。 同社は新会社に経営者を送り込み、実働部隊としては富士ハウスの元社員を雇用して、 契約済みの未完成物件に専念する。

 2月19日。松田耕治破産管財人および新会社の白石伸生社長による建主への説明会が開かれた。 白石社長は工事を引き継ぐ場合には、「意向確認金」として200万円を工事前に支払うことを求めた。 松田管財人は破産直前と直後に工事金を振り込んだ建主については、100%返還できるよう努力するとの考えも示した。

 管財人のこの処置は、一部の建主にとっては朗報であろうが、法律的に考えると、「証拠隠滅」に通じる 行為であると解釈できなくもない。富士ハウスの経営者は、破産を検討していることを社員に知らせないで、 工事金を集金させていた可能性もあるのだが、その「罪」を問う根拠が弱くなってしまうからである。

 振り返ってみると、姉歯事件の裁判で、ヒューザーの小嶋進社長が最終的に問われたのは、 マンションの耐震強度偽装を知りながら、購入代金をだまし取った「詐欺罪」だったではないか。

 それにしても、厳しい立場にいるのは建主たちである。工事を再開してもらうには、「意向確認金」として さらに200万円を支払わねばならない。「支払っても、大丈夫なのだろうか」と、 不安にかられていることだろう。お気の毒である。

 そして、声を大にしなければならないのは、富士ハウスの川尻増夫代表取締役をはじめとする、 経営陣の倒産後の「振る舞い」である。現在(2月21日時点)に至るまで、記者会見や説明会を まったく開いていない。どこに雲隠れしたのか知らないが、これほど無責任な経営者を見たことがない。

(注)破産問題の経緯に関しては、主に読売新聞・遠州版などを参考にした。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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