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「斜め45度」の視点

2021年11月9日

第387回 三井不動産が導入した「“9BOX”感染対策基準」とは何か

 三井不動産は、新型コロナウイルス感染症対策として、同グループが開発・運営する全ての施設への適用を目指して、「三井不動産“9BOX”感染対策基準」を2021年10月に公表しました。

 「これはすごいなぁ」と感じるような、画期的な対策です。不動産業界をリードしてきた、同社ならではの「プライド」のようなものが伝わって来ます。

 ところで、聞き慣れない“9BOX”とは、何を意味する言葉なのでしょうか。この記事を詳しく読み込む前に、“9BOX”を視覚的に理解するため、三井不動産のニュースリリースの冒頭に掲載されている、「9つの箱(9BOX)」が描かれた説明図をチラリと眺めてください。

 ニュースリリースのURL<https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/news/2021/1001_01/>

【■■】「“9BOX”感染対策基準」のエッセンス

 ウイルスや細菌などの病原体は、私たちの口や鼻から喉(気道の粘膜)に入り込んだり、目の結膜から入り込んだりして、身体の中に深く侵入していきます。

 この感染経路は感染症の種類によって異なりますが、主として①「飛沫感染」、②「接触感染」、③「空気感染(エアロゾル)」という3種類に分かれています。 

◆①飛沫感染とは
 「会話」や「咳」や「くしゃみ」をすると、口から細かい水滴(しぶき)が飛び散ることがあります。この細かい水滴を飛沫と呼びます。

 この飛沫の中に、病気の原因となる「細菌」や「ウイルス」などの病原体が含まれていた場合、人間の「気道の粘膜」や、「目の粘膜」などから侵入することによって発生するのが「飛沫感染」です。

 飛沫は水分を含んでいるため、それなりの大きさ(5μm以上=0.005mm以上)と重さがあり、口から放出されると、1~2mくらい飛んだ後、すぐ地面に落ちてしまいます。

 言葉を換えると、一般的には、1~2m以内の至近距離から飛沫を浴びて、感染してしまうことになります。

◆② 接触感染とは
 感染源に接触した結果、感染することです。皮膚や粘膜などが病原体に直接触れて感染する場合と、病原体が付着したタオルや容器などを介して間接的に感染する場合があります。なお、接触感染は、直接感染と呼ぶこともあります。

◆③ 空気感染(エアロゾル)とは
 空気中に浮遊する病原体が風(気流)によって運ばれ、皮膚に付着したり、あるいは呼吸によって吸い込まれて「鼻や、のどや、気管や、肺などの粘膜」に直接付着した結果、感染してしまうことを意味しています。

【■■】三井不動産が全ての施設で実施する具体的な対策

◆「飛沫感染」対策

 対策①
 飛沫防御--マスクの着用を励行するとともに、 必要な個所に適正な高さと幅を確保した「飛沫防止パーティション」を設置する。

 対策②
 フィジカル・ディスタンスの確保(身体的、物理的距離の確保)-- 混雑ポイントでの利用者の入場制限、席の間引き、表示等による密回避誘導をするなど、フィジカル・ディスタンスを確保するように努力する。

 対策③
 感染者検知--各施設の主要な入口で、サーマルカメラ等による検温を実施する。

◆「接触感染」対策

 対策①
 消毒・除菌--高頻度接触面のある動線上に、手指消毒剤を設置する。  また、日常清掃において高頻度接触面の消毒・除菌を行う  (エレベーターボタン、ドアノブ、手すりなど)。

 対策②
 非接触--お客様用トイレ等、水回りの自動水栓化、ドアレス化、自動扉化を推進する。

 対策③
 抗菌・抗ウィルス--高頻度接触面に抗菌・抗ウィルスの感染対策を施す  (抗菌抗ウイルス材料採用、抗菌抗ウィルス剤塗布)。

◆「エアロゾル感染」対策

 対策①
 換気--適正な換気量を確保する。換気量の不足が予見される場合には、人数制限を実施する。

 対策②
 空気清浄--中性能フィルター以上のフィルター、抗菌抗ウィルスフィルター、  各種空気清浄技術(紫外線利用、別置型空気清浄機)の実装、等の努力をする。

 対策③
 調温・調湿--適正な温度および湿度の確保を目指す。

【■■】先進技術を活用した「アドバンスト対策」を積極導入
 三井不動産は、ここまで説明してきた「“9BOX”感染対策基準」に加えて、さらなる感染リスクの低減を目指すため、施設特性に応じて「IoT技術(ネットワークを通じてサーバーやクラウドサービスに接続され、相互に情報交換をする仕組み)」の活用等による、「アドバンスト対策(先端的な対策)」を積極導入する予定です。

◆「飛沫感染」対策
 「自動チェックイン」など非対面サービススの提供、商業施設の混雑状況やトイレ空室状況の見える化など、先進的なIoT技術を活用した飛沫感染対策を実施する予定です。

 具体的には、ホテル自動チェックイン、トイレ空室状況の見える化、 戸別宅配ロッカー、入退出顔認証とサーマルカメラの組合せなど。

◆「エアロゾル感染」対策
 計測センサーによる空気質(CO2濃度、温・湿度等)や換気状況の見える化、気流分析など、IoT技術を駆使して、科学的な視点に立った換気効率や空気環境の改善を行います。

◆「接触感染」対策
 顔認証やエレベーター先行予約などを組み合わせた完全タッチレスオフィス、非接触エレベーターボタンや自動消毒装置の導入など、テクノロジーによる接触感染対策の拡充を図ります。

【■■】「アドバンスト対策」の導入施設例 (予定含む)

◆「三井不動産ロジステイクスパーク船橋Ⅲ」
 非接触エレベーターボタン、トイレ空室状況の見える化、吸引式ハンドドライヤーなど。

◆「仮称パークウェルステイト西麻布計画(2024年夏竣工予定)」
 非接触型セキュリティ・エレベーターボタン、IoT を活用した共用施設の混雑状況表示など。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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