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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2016年1月12日

第198回傾斜マンション管理組合が懸念する「区分所有法の致命的な欠点」

 傾斜したマンション、「パークシティLaLa横浜」の管理組合から依頼されて、705戸の住民を対象に昨年12月、「管理組合として今後、どうすればいいのか」という趣旨の講演をしてきた。

 管理組合にとって建築構造的には、A「全棟の建替」、B「傾いた西棟の建替」、C「全棟の補強」、D「傾いた西棟の補強」、E「現状維持」という5つの選択肢がある。それ以外に、個々の住民にとっては、F「販売元に売却し転出」という選択肢もある。

 講演の約1週間前に、管理組合が住民に対する第1次アンケートの結果を公表した。

 

 A「全棟の建替」を選択──476戸、74%

 B「一部棟の建替」を選択──59戸、9%、

 D「傾いた西棟の補強」を選択──19戸、3%、

 F「販売元に売却して転出」を選択──63戸、同10%

 私はアンケートの結果を尊重。「全棟の建替というコースを選択するのなら、建替決議をなるべく急いだ方がいい」と助言した。

 その理由は2つある。まず過去のマンション欠陥事例を振り返ると、管理組合がまとまって素早く動いた場合に限り、問題を何とか数年間で解決できるからである。その一方で、管理組合がまとまらなかったり、動きが遅かったりした場合には、10年経っても問題を解決できないケースも散見される。

 最悪の事例として知られるのが、福岡県久留米市に立つ15階建て92戸の「新生マンション花畑西」である。1996年に完成した直後に欠陥が発覚したにもかかわらず、今なお問題が決着しないため、区分所有者51世帯は2014年6月になって元請けの鹿島建設を提訴した。すなわち約20年経っても解決できないのである。

 2番目の理由とは、建替決議に潜む「致命的な欠点」である。区分所有法によれば、全棟の建替決議は、区分所有者およびその議決権の各5分の4以上の賛成により成立する。

 三井不動産レジデンシャルは昨年10月末に、全棟の建替を基本的な枠組みとする基本方針を示している。合わせて「転出するので住戸を買い取ってほしい」と求める住民の要望を受け入れること、および買い取った住戸の議決権は管理組合の全体的な意思に添って行使することを表明している。

 ここで表を見てほしい。表の最上段に示した、転出戸数0戸の段階で建替決議を成立させるためには、705戸の5分の4(=0.8)以上、すなわち564戸以上の賛成が必要になる。

 次に表の最下段を見てほしい。これは建替決議がいつまでも成立しないために、嫌気がさした住民がどんどん転出してその戸数が704戸になったにもかかわらず、最後の1戸が残ったケースである。

 この段階で建替決議をすると「三井不レジ704戸」対「残存住民1戸」なので、5分の4(=0.8)という壁を楽々と突破しているように思える。しかし、実際には壁は突破していない。

 それは、なぜか。区分所有者の数は、「1人の区分所有者が複数の住戸を所有する」場合でも、「1つの住戸を複数の者が共有する」場合でも、ともに1人と数えるからである。 

 要するに、管理組合の建替決議が遅れれば遅れるほど、多数派の意思が通りにくくなるという不合理な状態になってしまう。区分所有法は致命的な欠点を抱えているのである。

 「LaLa横浜」の管理組合は、このような状態に陥ることを懸念。来年1月に2回目のアンケートを行い、全棟建替の意見が5分の4以上になった場合には、直ちに臨時総会を開いて決議をする意向を示している。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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