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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2012年6月19日

第70回「パークシティ武蔵小杉」の防災ディレクター

 集合住宅の防災対策を考えるうえで、新たな記念碑となるタワーマンションが、東急東横線「武蔵小杉駅」エリアに建設されている。三井不動産レジデンシャルと三井都市開発による「パークシティ武蔵小杉ザ グランドウイングタワー」(川崎市中原区、地上38階、全506戸、2013年11月完成予定)である。

 東日本大震災が発生したとき、すべてのタワーマンションは構造的に耐えた。しかし、エレベーター(EV)が停止したため、上層階の住人が移動手段を失い、「高層難民」となって苦労したマンションが多かった。

 これを教訓に、「パークシティ武蔵小杉」では、大地震に対して「建物構造」「防災設備」「協同共助」という3段階で備える、独自の防災プログラムを用意した。

 設計は日本設計と竹中工務店だが、さらに防災ディレクターとして、阪神・淡路大震災を経験して防災対策のノウハウを身につけた、NPO法人プラス・アーツの永田宏和理事長が参加したのが目新しい。

 永田宏和氏は兵庫県西宮市生まれ。1993年に大阪大学大学院を修了後、竹中工務店に入社。2001年に同社を退社して、まちづくり、建築、アートの3分野をカバーする企画・プロデュース会社「iop都市文化創造研究所」を設立。さらに、2006年に、NPO法人プラス・アーツの理事長に就任した。

 プラス・アーツの代表的な業績としては、阪神・淡路大震災を教訓に開発した、子供でも楽しく学べる新しい形の防災訓練、「イザ!カエルキャラバン!」がある。

 また、東京ガス、無印良品などの企業が展開する防災プロジェクトのアドバイザーを務め、財団法人・兵庫地域政策研究機構による「第6回21世紀のまちづくり賞・社会活動賞」を受賞した。

 「パークシティ武蔵小杉」では、飲料水7日分、生活用水7.5日分、トイレ用水10日分を備蓄。また、各住戸のトイレを3日間使用できるようにしたのに加えて、全住民が3日間使用できる簡易トイレ「ラップポン」を確保した。これらは、永田宏和氏の提案だという。

 プラス・アーツの理事には、室崎益輝関西学院大学教授や、田村太郎ダイバーシティ研究所代表など、著名な防災専門家が名前を連ねている。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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