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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2016年6月7日

第213回熊本地震によるマンションの「知られざる被災状況」

 熊本地震では、4月14日に震度7の前震があって、16日に同じく震度7の本震があった。震度7の地震が2回も発生したのは前代未聞に近い。さらに余震でも、震度6強が2回、6弱が3回、5強が3回、5弱が7回と、建物に深刻な影響を及ぼす地震が続いた。

 気象庁の「震度階級解説表」は、1983年以降に完成した「新耐震基準」のマンションでも、次のような被害が発生すると述べている。

 震度6弱──壁、梁、柱などの部材に、ひび割れ・亀裂が入ることがある。

 震度6強──壁、梁、柱などの部材に、ひび割れ・亀裂が多くなる。

 震度7──壁、梁、柱などの部材に、ひび割れ・亀裂がさらに多くなる。1階あるいは中間階が変形し、まれに傾くものがある。

 マンション管理業協会は熊本地震で被災したマンションの調査結果を発表した。その結果、九州全体では、大破が1棟、中破が5棟、小破が151棟、軽微が53棟となっている。

 このうち大破したのは熊本市西区に立つ鉄筋コンクリート造、地上9階建、総戸数41戸のマンションで、1974年に竣工したいわゆる「旧耐震物件」だった。1階の駐車場を柱で支えるピロティ形式だったため、1階が押しつぶされるようにして大破した。

 参考のために東日本大震災で被災した東北6県と関東7都県のマンション調査結果を以下に示す。

 両者を比較すると、東日本大震災では大破は0だったのに、熊本地震では大破が1だったことを除けば、全体として熊本地震の方が被災件数が低かったことが分かる。

 さてマンションの被害程度は、日本建築学会の被災度区分を参考にして決める(下図)。

 被災度区分は倒壊、大破、中破、小破、軽微、無被害の6段階に分かれている。今回は幸いにも倒壊と判定された物件はなかったが、前述した熊本市西区の1階が押しつぶされたマンションは、倒壊と判定されてもおかしくはなかった。

 また本コラムの210回で、渡り廊下が縦に割れたマンションとして紹介した「サーパス平成」は、中破と判定されたと思われる。 

 なお、日本建築学会の「平成28年(2016年)熊本地震に関する情報ウェブサイト」に、「東京工業大学河野進教授らによる現地調査速報」が掲載されている。この速報には合わせて14件のマンション被害が報告されているので、とても参考になる。URLが長いので、以下をコピペしてほしい。

 

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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