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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2015年12月15日

第196回『日経アーキテクチュア』の危機意識

 建築専門誌『日経アーキテクチュア』は1976年に創刊され、今年11月下旬号で通算1060号に達した。約40年の歴史を持つ同誌は、これまでに2回だけ「建築の品質トラブル」を警告する特集を組んだ。

 まず2005年8月に「止まらない品質トラブル」特集号を発行した。

 「トラブル事例」として取り上げられた全20件のうち、分譲マンションは「東京都八王子の公団マンション」など3件だった。

 「今後、建築品質トラブルが今後増えると思うか」という質問に対して、増えるとする回答は実に76%にも達した。そして同誌が発行された3カ月後には、姉歯元建築士による「耐震偽装事件」が発覚したのである。

 最初の特集から約10年経った2014年5月、同誌は再び「品質崩壊の足音」特集号を発行した。

 「建築品質トラブルが今後増えると思うか」という質問に対して、驚くべきことに86%が「増える」と回答した。アンケートに回答した360人の勤務先は、総合建設会社(ゼネコン)114人、設計事務所112人、専門工事会社(サブコン)34人、不動産会社22人など、いずれも建物の企画・設計・施工に必要な実務を担っている人たちだ。

 記事「大手でもトラブル続発」には、「近年発生した主な品質トラブル建物リスト全19件」が載っていて、そのうち3割強の6件が分譲マンションだった。

 一「JR市川駅前の超高層マンション」。性能評価の現場検査で柱の鉄筋不足が発覚。鉄筋を追加する補修工事を実施(施工は清水建設JV)。

 二「東京・東麻布の超高層マンション」。工事監理者が鉄筋の取り違えを発見。設計で決めた仕様と直径は同一だが、強度の低い鉄筋を使っていた。該当個所を解体・再施工(施工は竹中工務店)。

 三「ザ・千里タワー」。超高層マンションの施工中にプレキャストの柱1本の接合部が圧壊。グラウト材を充填し忘れたことが原因。補修工事を実施(施工は竹中工務店)。

 四「ザ・パークハウスグラン南青山高樹町」。完成直前にスリーブ700個所以上の不具合が発覚した。販売中止、解体、建替という事態になった(施工は鹿島建設)。

 五「グランドメゾン白金の杜ザ・タワー」。施工中に地下の柱19本で鉄筋不足が判明した。施工者が不具合を発見し、補強筋を設置してコンクリートを再打設した(施工は大成建設)。

 六「パークタワー新川崎」。施工中に柱と梁の一部にひびや剥離が見つかった。接合部へのグラウト材の充填忘れが原因。一部を再施工(施工は清水建設)。

 トラブルが増える原因を要因別に分析すると、A「不動産会社が適正工費と適正工期で発注してくれない」ために、B「建設現場で十分な人数の施工管理者や職人を確保できないのに加えて、そのスキルも低下している」結果、C「品質管理システムが機能不全に陥った」ということになる。

 同誌が発行された翌月には「パークスクエア三ツ沢公園」の杭施工不良が発覚した。また約1年経った2015年3月には、東洋ゴム工業の免震装置性能偽装が発覚した。続いて10月には「LaLa横浜」の施工不良が発覚した。

 こういう展開を見ると、マンションデベロッパーとしても、『日経アーキテクチュア』の危機感に真剣に向き合う必要があるのではないだろうか。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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