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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2013年9月10日

第114回警戒領域に達した「建築プライスの上昇幅」

 建築コスト、建築プライスという言葉がある。一般的に、建築コストは「製造原価」、建築プライスは「販売価格」を意味することが多い。

 建設会社(ゼネコン)にとっては、専門工事会社やメーカーからの調達価格に現場管理費などを加えた工事原価が建築コストになり、発注者への見積価格や発注者との契約額が建築プライスとなる。

 一般的に、建築コストが上昇すれば、建築プライスも上昇する。しかし、ゼネコンと発注者の力関係次第では、建築コストが上昇しても建築プライスが横ばいで推移することもある。

 マンション・デベロッパーにとって重要なのは、ゼネコンとの契約額に相当する建築プライスである。

 建築専門誌『日経アーキテクチュア』8月25日号は、「建築コストおよび建築プライスとも大幅に上昇している」と報じた。

 建築コストの推移(東京圏、鉄筋コンクリート造、集合住宅)

  2011年─100.0

  2012年─103.0

  2013年6月─107.0

  2014年3月─109.0(予測値)

 建築プライスの推移(同)

  2011年─100.0

  2012年─100.0

  2013年6月─107.5

  2014年3月─115.0(予測値)

 注意しなければならないのは、2014年3月の建築コストが109であるのに対して、建築プライスは一気に115へと急上昇していること。

 その主な原因は、人手不足に伴う労務費の上昇である。人手不足の理由は2つ。1つは、1997年に685万人だった建設作業員が、現在では503万人と、182万人(約27%)も減ってしまったこと。もう1つは、東日本大震災の復旧工事が本格化したため、建設作業員がより高い賃金を求めて被災地へ向かうようになったこと。

 この結果、東京圏でも建設作業員が不足し、建築プライスが急激に上昇しているのである。マンション市場に及ぼす影響は極めて大きい。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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