リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年3月20日

第278回「日本一名前が長い分譲マンション」を突き止めるための四苦八苦

 日本一名前が長い分譲マンションの「名前」は何というのだろう──。そういう興味を持って原稿を書き始めた。最初の見込みでは資料調べに1日半くらい、執筆に半日くらい、「合わせて2日もあれば大丈夫」と考えていた。

 しかし、実際に作業を始めてみると、意外に難航して延べで約10日間もかかってしまった。文字数も最初は2000字程度を予定していたが、実際にはその10倍の約2万字に達してしまった。

 2万字もの原稿は本コラムには不向きなので、文字数に制限がない「住まいサーフィン」に掲載することにした。けれども、エッセンスだけは、ぜひ本コラムにも掲載しなければならない。その理由は何か?

 分譲マンションの名前を調べるとき、有力な手がかりになるのは、パンフレットや図面集の「概要欄」に記されている名称である。

 それでは、そのパンフレットと図面集は、どうやって入手するのか。私はこのリアナビの「マンションカタログ」コーナーで閲覧した。つまり、リアナビのお世話になったので、恩返しをしなければならないのである・・・。

 さて、「マンションカタログ」コーナーを利用したのに、なぜ作業に10日間もかかってしまったのか。ここから先は、話が極めてややこしくなる。

 パンフレットの表紙および図面集の概要欄に記された名称で判断する限りでは、「長い名前の1位候補」をスムースに絞り込むことができた。すなわち──。

 【I-linkタウンいちかわ THE TOWERS WEST Premier Residence】

 これは野村不動産と三井不動産レジデンシャルが、千葉県市川市市川南1丁目に供給した45階建・総戸数572戸の分譲マンションで、2009年1月に完成した。その文字数を数えると、文字と文字の間にあるスペース(空欄)を1文字に含めて、全部で47字になる。

 ただし、いろいろ調べてみると、「本物件には、カタカナ表記の方がふさわしいかもしれない」、と思わせる証拠が出てきた。すると、次のようになる。

 【I-linkタウンいちかわ ザ タワーズ ウエスト プレミアレジデンス】

 文字数を数えると、スペース(空欄)を含めて、全部で35文字になる。

 最初の名称は、「THE TOWERS」以下がアルファベット表記のため、47文字だった。しかし次の名称は、「ザ タワーズ」以下をカタカナ表記にしたため、一気に35文字に縮まった。47文字案ならダントツの日本1候補なのだが、35文字案ならせいぜいベスト5候補に過ぎない。

 すなわち、信頼できるランキングを作成するためには、概要欄に記された名称をそのまま採用していいかどうかについて、各マンションごとに慎重に検討しなければならないのである。

 さて、分譲マンションのネーミング方法は、大きく3種類に分かれる。1番目は「単独型(個別型)ネーミング」で、1棟ごとに個別に名前を付けていく方法である。


 この場合、マンションデベロッパー各社が持つ「ブランド名」と、マンションが建つ「地名」を組み合わせるのが一般的になる。

 2番目は「家族型(姓名型)ネーミング」である。


 このうち「姓名」の「姓」はファミリーネーム、「名」はファーストネームを意味する。これは分譲マンション(全体)が、A棟・B棟・C棟などの複数棟(部分)で構成されているときの方法になる。

 3番目は「ニュータウン連続型ネーミング」である。これは、あるデベロッパーがニュータウンに連続的に分譲マンションを供給するとき、使用される。


 この場合には、「大街区の名前」(ファミリーネーム)+「中街区の名前(ファーストネーム)」+「小街区の名前」(セカンドネーム)という、3段重ねになっているケースが多い。分かりやすくいうと、親・子・孫タイプである。

 次に、「単独型(個別型)」、「家族型(姓名型)」、「ニュータウン連続型」について、それぞれの特徴を表にまとめてみた。


 表にみるように、「単独型(個別型)ネーミング」は文字数が少なく、「家族型(姓名型)ネーミング」は文字数が増え、「ニュータウン連続型ネーミング」は文字数が極めて多くなる傾向がある。

 それとは別に、アルファベット表記(英語表記)だと、漢字やカタカナ表記に比べて、数十パーセントくらい文字数が多くなる傾向がある。

 以上を総合して、「分譲マンションの名前の長さランキング」を表にまとめた。

 このランキングは、「ニュータウン連続型ネーミング」、「家族型(姓名型)ネーミング」、「単独型(個別型)ネーミング」という3種類のタイプごとに、その上位物件を網羅するという方針で作成した。


 ランキングの1位候補と2位候補に明らかなように、アルファベット表記(英語表記)の方が、文字数を稼ぐことができるため極めて有利になっている。

 その点で悩ましいのが、4位候補の「I-link」(35文字)である。すでに説明したように、パンフレットの表紙および図面集の物件概要を見ると、「THE TOWERS」以下はアルファベット表記になっているので、それを受け入れると47文字にも達して、4位候補から一気に1位候補に躍り出てしまう。

 そういう事実を記録するため、ランキングの末尾に「幻の1位候補」として特記した。

 以上で、本コラムの文字数は2000字を超えた。約2万字もあるコラム全体を読みたいと考える方は、ウェブサイト「住まいサーフィン」へどうぞ。

 〔前編〕日本一名前が長い分譲マンションの「ふわふわと定まらない文字数」

    https://www.sumai-surfin.com/columns/aka-ao-ki-shingo/hosono-20180105

 〔後編〕「分譲マンションの名前長さ比べ」でアルファベット型が圧勝

    https://www.sumai-surfin.com/columns/aka-ao-ki-shingo/hosono-20180201

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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