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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2013年2月5日

第93回「風の道」を描いた間取り図

 東京にはヒートアイランド現象を緩和するための「風の道」がある。「海の森」→「お台場」→「晴海」→「築地」→「皇居」→「新宿御苑」→「明治神宮」と大規模な緑地を街路樹でつなぎ、海からの風を都市の内部に流す「風の道」をつくる。この計画は建築家の安藤忠雄氏などが主導する。

 「風の道」概念図は次のURLをクリック。

 http://www.uminomori.metro.tokyo.jp/outline_1.html

 一方、分譲マンションにおいて、「風の道」に最も熱心に取り組んでいるのが、中高層マンション「エコヴィレッジ」を手がけるリブラン(東京都板橋区、鈴木雄二社長)である。

 まず、その図面集がユニークだ。間取り図の横に「通風経路」を示す図を添え、バルコニー→リビングダイニング→廊下→玄関→室外などへと至る「風の通り道」を描いている。

 サッシには開き制限をかけた通風防犯用ストッパーをつけ、玄関には通風専用のブリーズウィンドウを設置。風の量をコントロールできるように、居室の扉は引き戸になっている。

 また、通風性能を評価するために、独自に「BL(ブリーズライン)値」という概念を設定した。最初に、「通風経路」を下式で計算する。

 「通風経路」=「共用廊下側の窓の数」×「住戸内部の開口部の数」×「バルコニー側の窓の数」

 次に、それぞれの「通風経路」ごとに、流れがよければ「1.0」、遮る物があれば「0.5」などと重みを付けて、総合的に評価する。

 添付した図は「エコヴィレッジ蓮根みなみ公園」(6階建、36戸)の図面集から抽出した。左が「3面通風」でBL値31.5、右が「4面通風」でBL値83.5。「4面通風」の効果が明確に現れている。

 これまで、「2面開口」や「3面開口」という場合、「採光」だけを気にしていた。今後はリブランを見習って、「通風」にも気を配りたい。

 ほかに、戸建住宅における「風の道」で注目される例として、全国で2万5000棟を超えるパッシブハウスの実績を持つOMソーラー株式会社の最新モデル、「フォルクスS-Pro」がある。前真之東京大学大学院准教授の協力を得て、窓の位置、大きさ、ドアやブラインドの開閉などの条件に応じて発生する「風の道」を、2年がかりの実測をもとに、有効性を検証している最中だ。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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