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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年10月16日

第298回 マンションの「施工売上高No1会社」と「設計売上高No1会社」

 建築専門誌『日経アーキテクチュア』は秋になると、「設計事務所と建設会社の経営動向」について特集する。今年は「堅調維持も視線は五輪後──経営動向調査2018」と題し、9月13日号に掲載した。


 特集では庁舎、事務所、生産施設、文化・教育施設、スポーツ施設、商業施設、住宅・・・など、建物用途別に「2017年度(2017年4月〜2018年3月)のトップ10ランキング」をまとめている。ここではマンションと縁が深い、住宅に関する「トップ10ランキング」を紹介する。

 まず「建設会社売上高ランキング(住宅)」である(下の表)。


 私はかつて『日経アーキテクチュア』編集部に勤務していたため、こんな指摘をすると後輩を批判するようで心苦しいのだが、上の表には大きな欠陥がある(赤字で示した部分)。

 そもそも、1位の積水ハウスは売上高(住宅)の9612億円を、普通の大手建設会社と同様に、一般企業からマンションなど集合住宅の建設工事を請け負って入手したのだろうか?

 それを確認するため、積水ハウスが平成30年1月期決算(2017年2月〜2018年1月)で公表した、売上高の「セグメント別内訳」をチェックしてみよう(下の表)。


 このうち、請負型セグメントに記された「戸建住宅事業3712億円」と「賃貸住宅事業4428億円」を合計(小計)すると8140億円になるので、『日経アーキテクチュア』が積水ハウスの「建設会社売上高」として掲載した9612億円に近い金額になる。

 ただし、上記の請負型・戸建住宅事業は「住宅メーカー」として行う事業であり、また請負型・賃宅事業は「住宅メーカー」あるいは「不動産会社」として行う事業であることに注目したい。

 また2位の大和ハウス工業も、積水ハウスと似たような立場にある。

 続く3位の大東建託は、土地所有者から「賃貸建物」の設計・施工、および入居者斡旋・管理・運営代行を依頼された、「不動産会社」としての事業を行っている。

 すなわち、積水ハウス、大和ハウス工業、大東建託の3社は、「一般企業からマンションなど集合住宅の建設工事を請け負う建設会社としての役割」を果たしたワケではない。

 それに対して、大成建設、竹中工務店、大林組、清水建設、鹿島建設など、大手建設会社の「売上高(住宅)」は主として、「不動産会社・一般企業・官公庁などから発注される集合住宅(分譲マンション、賃貸マンション、社宅、公舎)の建設工事を請け負う」ことで得られることに注目したい。

 このように、『日経アーキテクチュア』は「建設会社売上高ランキング」と評しているものの、その上位を占める3社は普通の建設会社とは異なっているのである。

 本来なら、ランキングを次のように処理すれば良かった(下の表)。


 ランキングに掲載するのは、一般企業からマンションなど集合住宅の建設工事を請け負う建設会社に限定するのである。すると、1位の座を占めるのは長谷工コーポレーションであり、これなら多くの関係者が納得したに違いない。

 その上で、ランキング表の欄外に積水ハウス、大和ハウス工業、大東建託の売上高を注記すれば分かりやすかった。

 参考までに、長谷工コーポレーションが2017年度(2018年3月期)に受注した、主な分譲マンションを次に示す(下の表、同社の決算説明資料から引用)。


 次に同社の2016年度(2017年3月期)および2017年度(2018年3月期)の「特命受注比率・設計施工比率」を示す(下の表)。


 この表は、長谷工コーポレーションの強みが「土地持込みによる特命受注方式」、すなわち用地取得と開発企画の段階からデベロッパー各社に提案を持ち込む方式にあることを、明確に物語っている。

 『日経アーキテクチュア』の「経営動向調査2018」から、次に「設計事務所売上高ランキング(住宅)」を紹介する(下の表)。


 1位の座を占めた日建ハウジングシステムは、名前が示すように日建設計のグループ会社で、分譲マンションなど集合住宅の設計で高い評価を受けている。

 その代表作には以下のマンションがある。

【東京ミッドタウン──ザ・パーク・レジデンシィズ・アット・ザ・リッツ・カールトン】
 東京都港区赤坂、2007年1月竣工、地上29階、537戸
 発注者は三井不動産など、日建設計と協働

【ラトゥール代官山】
 東京都渋谷区鶯谷町、2010年9月竣工、地上6階、139戸
 発注者は住友不動産、日建設計と協働

【紀尾井レジデンス】
 東京都千代田区紀尾井町、2016年5月竣工、地上21階、135戸
 発注者は西武プロパティーズ、日建設計と協働

【パークコート赤坂檜町 ザ タワー】
 東京都港区赤坂、2018年2月竣工、地上44階、319戸
 発注者は赤坂九丁目北地区市街地再開発組合
 隈研吾建築都市設計事務所、日建設計と協働
 マンションの売主は三井不動産レジデンシャル

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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