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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2011年8月16日

第40回耐震性と建築費の「知られざる関係」─ 戸建て住宅編

 「建物の耐震性と建築費(建築コスト)は、どのような関係にあるのか?」。あなたは、この質問に答えられるだろうか。

 鉄筋コンクリート造や鉄骨造の新築建物に関しては、その答えは、日本建築学会の1994年学術講演梗概集に掲載された研究論文に示されている。論文のタイトルは「地震荷重を変動させたときの各種建物の建設費について」。神田順氏(現、東京大学教授)ほか4名の共同研究だ。

 実際には、専門用語を使って厳密に表現されているが、分かりやすく言えばこんな結論になっている。

(1)耐震強度を、基準値の1.25倍(125%)にすると、建設費は約2.5%アップする。

(2)耐震強度を、基準値の1.5倍(150%)にすると、建設費は約5%アップする。

 例えば、建設費2000万円、耐震等級1の戸建て鉄筋コンクリート造住宅の場合には、次のようになる。

(1)耐震等級2(建築基準法の1.25倍の強さ)に向上させる場合──

  建設費は約50万円アップする。

(2)耐震等級3(建築基準法の1.5倍の強さ)に向上させる場合──

  建設費は約100万円アップする。

 このように、耐震等級1の住宅を、耐震等級3にするための費用は、「わずか100万円のアップ」に過ぎない。そして、多くの人が、この事実を聞くと、「そんな額で済むんですか」と驚いた表情になる。

 東日本大震災に遭遇し、多くの国民が耐震性に敏感になっている今、業界関係者としても、耐震性と建築費の関係を正確に理解し、かつ積極的に説明してほしい。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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