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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2022年6月21日

第402回 築50年の老朽化マンションを「リファイニング工事」で再生

 皆さんは「リファイニング建築」という専門用語を聞いたことがありますか。これは複数の大学で客員教授を務めてきた建築家の青木茂氏が、1999年に提唱した「建築を再生する奥深い方法」です。

 ①「既存建物の耐震性能」を、「建物の軽量化や耐震補強」などによって、「現行法レベルまで向上」させる。

 ②再生工事に際しては、「既存構造躯体」の約80%を再利用すると同時に、「大胆なデザインの転換、用途変更、設備一新」などを行う。

 ③その結果、「通常の建て替え工事の、約60~70%の費用」で、「建物の再生および長寿命化」を実現できる。

 これは、最近流行している用語を使うと、『持続可能な建築・都市の構築を目指す方法』、ということになります。

 通常行われることが多いのは、機能の回復を目指す「リフォーム工事」、用途と機能の変更あるいは性能の向上を目指す「リノベーション工事」です。

 しかし、「リファイニング建築」は、『ひと味もふた味も』違うのです。それゆえに、「商標登録(第4981412号)」されています。

[■■]行列ができる建築見学会

 建築設計事務所「青木茂建築工房」は、「リファイニング建築」が完成した際には、事情が許す限り「建築見学会」を開催しています。

 私(細野透)も取材する目的で、何回か参加させてもらったことがあります。そうすると、見学会の会場の前には、いつでも多くの人が行列を作って待っているのです。

 それゆえに、「青木茂建築工房」が開催する建築見学会は、いつの間にか「行列ができる建築見学会」と呼ばれることになったほどです・・・。

[■■] 三井不動産にとって「6号目」となるリファイニング物件

 三井不動産は2022年5月17日に、かなり長いタイトルをつけたニュースリリースを公表しました。その内容を以下に要約しました。

 三井不動産グループの「老朽化不動産再生コンサルティングサービス」
 築50年旧耐震賃貸住宅、第6号リファイニング物件竣工
 建替えと比較し「建築費低減」「工期短縮」「CO2 排出量▲72%」を実現

 5月17日(火)リファイニング建築サロン&物件竣工見学会開催

 URL<https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000281.000051782.html>

 ◆このタイトルの下に、次のような本文が続きます。

 ──三井不動産は、「リファイニング建築」を活用した、「老朽化不動産再生コンサルティングサービス」に取り組んでおりますが、このたび青木茂建築工房と手掛けた6号目となる「リファイニング建築物件(新宿区、1971年築の賃貸住宅)」が竣工いたしますのでお知らせいたします。

 また、期間限定のリファイニング建築サロンを同物件内に開設。それにタイミングを合わせる形で、サロン見学会および竣工見学会を本日5月17日(火)に同時開催いたします。

 本物件は、建築当初にはなかった「日影規制等の建築基準法の適用」を受けることに伴い、「建替えると建物規模が縮小されることから、十分な事業性能が確保できない」という課題を抱えておりました。

 今般、リファイニング建築を活用した再生を目指すことで、建物規模を維持した事業を実現するとともに、現代の賃貸マーケットニーズに合わせた間取り構成や商品企画により、新築に近い賃料設定を実現し、事業性能の確保を図ることが可能になります。

 なお、竣工後は三井不動産レジデンシャルリースで「サブリース(転貸)」を予定しております。

 また、本物件では既存躯体を補修、補強したうえで84%を再利用することで、建替えと比較して「事業費低減」、「工期短縮」を実現。それとともに、東京大学との共同研究により、建替えの場合と比較して、「CO2を72%削減する」ことが判明しており、脱炭素社会の実現へも貢献しております──。

 ◆「承継」と「再生」を意識した共用部計画
本物件は、既存建物の特性を生かし、単に新築同等に再生するのではなく、承継すべきものにも着目した共用部の再生計画としております。

 まず、従前より建物入り口にあるオーナーと共に歩んできた緑豊かな植栽は、施工計画段階から植栽への影響を最小限にするよう配慮し、庭園の景観を承継する計画としております。

 また、エントランス周辺は、時代のニーズに合わせて計画的、意匠的再生を図り、従前の応接室を、既存の庭園を最大限活かせるよう住戸へ用途変更し、更なる事業性向上を図っております。

 ◆賃貸マーケットのニーズを捉えた間取り構成
本物件は、従前は各階3LDKを3戸配置する構成でした。

 しかし、現代のすまいにおけるニーズや、周辺の賃貸マーケットニーズを捉えた計画とするため、各階に「1LDK、2LDK」を5戸配置した多彩なバリエーションを 設けた間取り構成とし、事業性能の向上および安定稼働の実現を図りました。

 また、本計画を実現するため、「ブレース」を使用する一般的な耐震補強に対して、青木茂建築工房による「間取り構成を考慮した耐震補強計画」も大きな特徴です。

[■■] リファイニング建築の特徴

 ①眺望や外観を損なわない耐震補強
 耐震性能上問題のない壁や設備を撤去し、建物を軽量化したうえで独自の補強を行うことにより、「眺望や外観」を損なうことなく耐震性能を向上させます。

 ②建て替えと比較して低コスト、工期短縮
 建て替えと比較して約70%のコストで設備、内外装を一新。解体と新たな 躯体の建築が必要ないため、工期も短縮されます。

 ③検査済証を再取得し建築法規上も新築同等
 建物にかかる単体規定を現行法に適合させることにより、新たな検査済証の取得を実現し、将来的な 資産の流動性の確保を行います。特に構造躯体に関しては、補修の過程をすべて記録に残す「家歴書(建物の履歴書)」を作成します。

 ④建築廃材を削減した、環境にやさしい工事
 既存躯体の再利用によって、工事に伴うCO2の排出量を大幅に削減できます。

[■■]三井不動産の「老朽化不動産再生コンサルティングサービス」

 三井不動産は青木茂建築工房と、同社の建築手法であるリファイニング建築を活用した老朽化不動産再生コンサルティングサービスに取り組んでいます。

 本サービスは、旧耐震基準の建物を中心とした老朽化不動産をご所有のオーナー様に対して、単に建築的な再生を図るだけでなく、三井不動産グループの連携により、不動産全般のコンサルティング、商品企画、賃貸管理運営等、事業的な再生までサポートし、老朽化不動産の抱える様々な課題を解決します。

[■■]三井不動産グループの「SDGs」への貢献について

 三井不動産グループは、「共生・共存」「多様な価値観の連繋」「持続可能な社会の実現」の理念のもと、人と地球がともに豊かになる社会を目指し、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)を意識した事業推進、すなわちESG 経営を推進しております。

 当社グループのESG経営をさらに加速させていくことで、日本政府が提唱する「Society5.0」の実現や、「SDGs」の達成に大きく貢献できるものと考えています。今後も、当社グループは街づくりを通じた社会課題の解決に向けて取り組んでまいります。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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